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人気絵本作家の刀根里衣の『ぴっぽのたび』『わたし、お月さま』に英訳版が登場!子どもの英語学習にも

繊細な筆致による幻想的な作品世界で、高い評価を受けている絵本作家の刀根里衣さん。このたび、そんな刀根さんの絵本から、2014年刊行の『ぴっぽのたび』と、2016年刊行の『わたし、お月さま』が英訳されました。

英訳出版を手がけた日販アイ・ピー・エス 翻訳チームのロディーネル・アンナさんと小林愛子さんに、翻訳によって引き立つ刀根さんの作品の魅力、英訳出版のねらいを綴っていただきました。

▼(左から)『ぴっぽのたび』『わたし、お月さま』英訳版

 

翻訳によって生まれる“英語ならではの響き”と、言語を超えた魅力 再発見満載の、旅立ちと出会いの絵本

春は、旅立ちの季節。大勢の人々が新しい生活を始め、たくさんの新しい出会いと経験に恵まれる時期です。そんな季節にぜひ手に取ってほしいのが、刀根里衣さんの絵本『ぴっぽのたび』と、芥川賞作家・青山七恵さんとの共作『わたし、お月さま』です。

いろいろな希望が花開くこの時期にあわせて、このたび『ぴっぽのたび』『わたし、お月さま』の英訳版を出版しました。

ぴっぽのたび
著者:刀根里衣
発売日:2021年2月
発行所:日販アイ・ピー・エス
価格:1,760円(本体1,600円+税)
ISBN:9784865055344

 

わたし、お月さま
著者:青山七恵、刀根里衣
発売日:2021年2月
発行所:日販アイ・ピー・エス
価格:1,760円(本体:1,600円+税)
ISBN:9784865055351

 

刀根里衣さんはイタリア・ミラノ在住の絵本作家で、これまでに17冊の絵本を出版しています。絵本作家になったきっかけは、京都精華大学デザイン学部を卒業後、2010年に、世界最大の絵本の祭典「ボローニャ児童書ブックフェア」でイタリアの出版社の目にとまったこと。翌年絵本作家としてデビューし、2013年に同ブックフェアで国際イラストレーション賞を受賞した作品を、スペイン語の絵本として出版したのが『ぴっぽのたび』です。

刀根さんの絵は、繊細なタッチと、見る人をほっとさせるような包容力が魅力です。また、どの作品も、国や文化、年齢を問わず楽しめるストーリー展開のテンポのよさと、年齢を重ねて再び読んだときに新しいメッセージを発見できるような、内容の奥深さを持っています。

『ぴっぽのたび』は、いつもひとりぼっちのカエルの「ぴっぽ」が、夢を旅することができるひつじと出会い、12か月の夢を一緒に旅する物語。ぴっぽとひつじは旅をしながら、ある月は金魚に、またある月は朝顔に出会い、彼らの夢や願いを聞いていきます。旅の途中でぴっぽは重大な決断をし、大きな第一歩を踏み出すのですが、それはのちに、「本当に大切なこと」を知るきっかけに繋がっています。

 

© Satoe Tone / Ediciones SM,2014

© Satoe Tone / Ediciones SM,2014

 

ぴっぽとひつじが夢の旅を始めるのは5月。読者が“新しいこと”を始めたくなる新生活に、ぴったりの絵本です。新たな環境の中で、今まで当たり前のように支えてくれていた人たちの大切さにも気づくことのできるストーリーとなっています。

『わたし、お月さま』は、『ひとり日和』で第136回芥川賞を受賞した青山七恵さんと、刀根さんの共作。一人で宇宙から地球を眺めるのが寂しくなってしまったお月さまが、昔自分に会いに来てくれた宇宙飛行士を探すため、地球を訪れ大冒険を繰り広げます。しかし地球の人々は、夜空から月がいなくなってしまったことにさまざまな思いを寄せ、お月さまの帰還を願います……。

© 2016, Tone Satoe

 

自分の役割や価値を見失い、一度離れてしまいたくなることは、きっと誰もが経験したことがあるでしょう。しかしお月さまは最後に、「自分はこんなにも地球の人たちに愛されていたのだ」と気づきます。読む人の心を癒し、小さな勇気を与えてくれる、そんなお守りのような作品です。

この『ぴっぽのたび』と『わたし、お月さま』は、異なる言語で読むと、ことばの響きによってまた違った雰囲気が味わえると同時に、物語に込められたメッセージは世界共通のものであることが、よりはっきりと伝わってきます。それこそが、2作を英訳出版することに決めた理由です。キャンバスに描かれたようなやわらかな刀根さんのイラストは、英語版でも遜色なく再現されています。

© 2016, Tone Satoe

 

この2冊の絵本を、世界中の読者に手に取っていただくことが私たちの目標です。海外のご友人へのギフトにもぴったりだと思いますし、すでに日本語で読んだことがある方には、ぜひ日本語と英語両方で楽しんでいただきたいです。読みやすい英語を心がけているので、ご自分やお子さまの英語学習にもおすすめです。

翻訳版で特に注目していただきたいのは、登場するキャラクターの性格です。たとえば『わたし、お月さま』では、主人公であるお月さまの、素直じゃない、どこか強がって大人ぶっている姿を、英語でその通りに表現するのが最大の課題でした。日本語版では豊富な一人称と語尾にそれが表れていると思うのですが、英語では再現しにくいので、単語や口調に、お月さまの感情や、行間に隠された幼さや望みを含ませています。

『わたし、お月さま』では、もう一つ、作品の大きな特徴である「軽やかな擬音語」を自然に英語へ変換することもチャレンジでした。

たとえば、お月さまが子どもたちにボールと間違えられてしまうシーンの「ぽーん、ぽーん」、高く空へ上っていく時の「ふわふわ、ふわふわ」。このかわいらしい響きは、日本語の文章では幻想的な絵本の世界観がより強調されるのですが、英語の文章に組み込んだときには、少し不自然に感じられてしまいます。読み上げる際に最も読みやすく、かつ日本語版で表現されている「お月さまの軽やかさ」が再現されるよう、言葉の並びや響きを工夫しています。

ぜひ読み聞かせなどで声に出して、それぞれの言語特有のリズムを味わっていただければと思います。

(文=日販アイ・ピー・エス株式会社 ロディーネル・アンナ、小林愛子)