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【座談会】夏の児童書特集2023~出版社3社に聞く この夏の販売ポイント

もうすぐやってくる夏休みシーズン。7~8月にかけては、児童書の売上が最盛期を迎えます。この時期、お客様のニーズに応えるためにはどのような売場づくりがおすすめなのか、児童書出版社3社の販売担当者にお話を聞きました。

(写真左から)
童心社 販売部 課長 細谷葉子さん
Gakken 出版営業部 出版販売課 児童書チームリーダー 後藤真宏さん
ポプラ社 カスタマーコミュニケーショングループ 営業企画ユニット チーフ 吉本宏美さん

 

▶「夏の児童書特集2023」は こちら

 

児童書ジャンルにおける2023年夏のトレンド

――はじめに、昨今の児童書ジャンルの動向や、2023年夏の児童書におけるトレンドについて教えてください。

後藤 弊社における書店様の売上データを見てみますと、例年7~8月は年間売上の20%強のシェアとなっており、クリスマスに次いで主要な商戦ととらえています。

この時期は、長期休みの宿題にお役立ていただいたり、学びを深めていただいたりという観点から、自由研究や図鑑といった書籍が中心になります。

特に、図鑑の販売データや読者アンケートを見ると、昨今はボリュームゾーンが5歳、つまり未就学児となっています。学習図鑑はまだちょっと早いというお子さんには、他社も含め、イラストを用いた図鑑も数多く出されていますので、そちらもおすすめです。これから夏に向けては、豊富な図版でお子さんの興味をさらに深掘りできるコンテンツとしての図鑑をフックに、全年齢に対応した商品群をご用意しています。

トレンドという面では、新型コロナウイルスが5類感染症に移行し、消費マインドが外に向いている中で、昨年の秋ぐらいから出版業界が苦しい店頭状況になっているのは報道されている通りです。しかし、外出が増えるとなると、今度は“体験”が付いて回ります。弊社としても、6月に『星と星座』や『』、『鉄道』といった図鑑の新版をご用意しており、星空観察や旅行などに持って行って、親子で学びを深めていただく際にもご活用いただければと考えています。

細谷 童心社にはGakkenさんやポプラ社さんのような図鑑はないのですが、夏の店頭では課題図書をはじめ各種推薦図書も賑わいをみせます。その中でも弊社では、『かあちゃん取扱説明書』や『先生、感想文、書けません!』といった、小学3~4年生くらいからを対象にした読み物の売行きが明確に伸びます。

『かあちゃん取扱説明書』は弊社の年間売上でも第10位と一年を通して非常によく売れる作品で、読書が苦手なお子さんも手に取りやすく、ご家族みなさんで楽しめる作品です。『先生、感想文、書けません!』は2021年6月の発売ですが、現在累計発行部数が57,000部と版を重ねています。感想文はすべての小学生が夏休みに頭を抱える永遠のテーマだと思いますので、こちらも多くの子どもたちから支持を得ています。夏はこの2点を中心として、小学生向けの読み物を打ち出して行きたいと考えています。

加えて弊社では、年間売上のトップテンがすべてロングセラーなのですが、その10タイトルが年間売上の35%を占めています。全体をみてもロングセラーの売上が主となりますので、しっかりと売り伸ばしを図っていきたいです。

吉本 ポプラ社でも、課題図書や推薦図書、自由研究といった学びに関する書籍を、夏のトレンドとして強く押し出していきたいと思っています。

それと同時に、赤ちゃんや幼児といった未就学児向けのアイテムも、特に大事な商材と考えています。

夏休みには、課題図書などをお求めにご家族で来店されるお客様が増えます。ごきょうだいがいらっしゃる場合、学校の教材だからといって、お兄ちゃん、お姉ちゃんにだけ本を買ってあげるのは、親御さんとしても忍びないのではないでしょうか。そういった時に、一緒にお買い求めになれる乳幼児向けの絵本もご展開いただけるよう、この春先から書店さんにご提案しています。

——その場合、乳幼児向けとしてはどのような絵本をご提案されているのでしょうか。

吉本 まずは季節感のあるものが店頭でも目を引きやすいと思いますが、絵本には、色や形をテーマにしたものなど、季節を問わないものもたくさんあります。その場合は、その本を読んだ子どもがどういう反応をしてくれるのか、モニターを使ったデータをご用意したり、シリーズ全体のブランディングを図った上でご提案したりしています。

最近ですと、弊社では『あかまる どれかな?』をはじめとする『あかまるフレンズ』シリーズにおいて、キャンペーン・イベントの実施や関連会社でのアプリ化など、ご家族一緒に遊べるシリーズとしてさまざまなご紹介を行っていますので、この夏もご注目いただきたいです。

 

季節商材とトレンド、ロングセラーをバランスよく展開

――夏の売場づくりにおいては、どのようなことが大切になってきますか?

細谷 夏はやはり、課題図書や推薦図書、図鑑、自由研究に関する本が売場を占めると思います。その一方で、児童書はロングセラーの占有率が高いので、いわゆる元棚にロングセラーや定番商品をきちんと並べていただくことが、売場の構成としてもとても大切だと考えています。

後藤 お店の規模や展開方法によっても異なるかと思いますが、先ほどお話があったように、夏商材のフェア台に関連する絵本などもあわせて置いていただくことで、ごきょうだいへの併売につながるのではないでしょうか。

また、エンドの平台などに余裕があれば、季節商材でワンコーナー作っていただくと、変化のある、目先の変わった売場をお客様にご提供できると思います。

吉本 児童書の場合は、「今年しか売れない」という本のほうが少ないですし、対象となる年齢のお客様は入れ替わっていきますので、出版社側も毎年、「これは絶対夏に売れます」という作品をご提案することになります。その点、どうしても売場の変化はつけにくくなるかもしれません。

ポプラ社 吉本宏美さん

 

——一方で、広く注目を集めるような旬の作家さんやシリーズも生まれていますね。展開において、ロングセラーとはどのようにバランスをとるのが望ましいとお考えですか。

細谷 なかなか難しい質問ですが、書店さんの店頭はまさに販売の「現場」なので、新刊にスポットを当てて盛り上がりを作りたいというお気持ちはご担当者みなさんがお持ちでしょうし、それはとても大切なことだと思います。

吉本 トレンドを押さえておくことは集客にも影響があることですので、ある程度しっかり展開することは必要ですね。

後藤 一方で、自店の定番商品やロングセラーの実績をご覧いただくと、実はどのお店でも軽視できない売上があるだろうと思います。我々出版社がロングセラーを大事にする理由もそこにあります。

ここ数か月の、いろいろな書店さんおよび販売会社の売上ランキングを拝見すると、確かに上位は新刊になっており、それは今までも変わらない傾向です。しかし、少なくとも上位50位の中にも、各社の定番商品といわれる、しかも数十年前の商品が毎月入ってきています。そのあたりも踏まえて、人気の商品とバランスよく展開していただくことで、「次の1冊」をお求めになるお客様が、継続的に来店される売場になるのではないでしょうか。

Gakken  後藤真宏さん

 

——絵本の次のステップとして、読み物への移行の難しさを感じている親御さんも多いかと思います。

細谷 たしかに絵本から読み物への橋渡しになるようなグレードの本自体が少ないかもしれませんね。

吉本 お子さんそれぞれの読書力に、大きく差が出る時期ということもあると思います。

たとえば弊社ですと『かいけつゾロリ』のシリーズは、著者の原ゆたか先生ご自身が「絵本から読み物への橋渡しとして」という思いを込めて書かれています。物語のおもしろさはもちろんですが、次へとめくらせる仕掛けがすべてのページに散りばめられていますので、お子さんが読み物へと興味を持ち始める時期に、ぴったりのシリーズとしておすすめです。

後藤 売場の構成として、絵本から読み物の棚に横移動できる書店さんはなかなかないかもしれません。絵本だけで売場が完結していて、その背中側だったり、棚の反対側だったりに児童文学が置いてあると、そこで導線が切れてしまう難しさがあります。

その場合、書店さんの展開の妙だと思うのですが、絵本売場からも見えるところにゾロリのPOPがポンと出ていたりすると、「あそこにゾロリの本があるんだ、行ってみよう」となると思うんですね。

拡材を児童書売場のどこからでも見えるところに掲出していただくなど、お子さんの目線をうまく誘導するサインとして使っていただくといいのではないでしょうか。

吉本 「自分が読むべき本があそこにあるかもしれない」とわかるのは、特に絵本から読み物に移行したいと思っている過渡期のお子さんには、よいきっかけになりますね。

後藤 小学1年生も、順次学校図書館の貸し出しなどが始まるでしょうし、友だちが借りていて借りられなかったけれど、自分も読んでみたいとなれば、やはり書店さんに来てくれるのではないでしょうか。そういった時に、お子さんの目線にあわせてアイキャッチがあるのは効果的だと思いますね。

吉本 親御さんに知ってほしい情報と、いまのお話のようにお子さんの目の高さに置きたい情報との整理については、よく社内で拡材についてのフィードバックをもらう時にも言われます。

親御さん向けには、○○さん推薦といったようなその本のエビデンスや読者の感想など大人の方の目に留まってほしい情報を、子どもたちにはその本の楽しさが伝わるようなPOPやバルーンといったディスプレイなど、対象を分けてご用意しているケースもあります。それぞれ見てほしい人の視点を考慮して、ご活用いただけるとありがたいです。

細谷 集客や、店頭を盛り上げる施策ということでお話ししますと、弊社では『いないいないばあ』や『14ひきのシリーズ』といったロングセラー絵本を中心に、フォトスポットや展示のパネルなどを作成しています。

絵本のキャラクターになれる変身セットやタペストリーなどをご用意しているので、子どもたちに絵本の世界を楽しんでもらえるようなイベントを、これからの夏休みに向けてご提案できたらと考えています。

ここ数年は、集客のためのイベントを開くのがなかなか難しい状況でしたが、みなさんがお出かけに前向きになってくるこのタイミングで、お客様に店頭に足を運んでいただくきっかけづくりを弊社でもお手伝いしていきたいと思っています。

▲子どもたちが絵本の中に入れるようなしつらえのフォトスポットでは、絵本の世界観を体験できる(写真:TSUTAYA 瀬戸店)

 

本の良さを共有できる仕組みとしてデジタルを活用

——まさに、リアルな体験につながる取り組みかと思いますが、昨今は、デジタルを活用した取り組みも盛んになっています。児童書販売における活用事例などがありましたら教えてください。

吉本 弊社ではGIGAスクール構想を見据えた取り組みをいくつかしているのですが、その一環として「Yomokka!(よもっか!)」という電子書籍の読み放題サービスを自治体や学校向けに提供しています(2023年6月現在でポプラ社を含め出版社29社が参画しています)。

実際の事例として、「Yomokka!」を導入いただいた学校では、「Yomokka!」を通して学校図書館にはない本にも触れる良い機会となり、こどもたちの「本をもっと読みたい」という気持ちが喚起され、学校図書館の利用も増えたというケースもあるそうです。

あくまでも一例なので、すべての導入校でそうなるわけではないかもしれませんが、紙の本の売上にもつながるひとつの明るい兆しになるのではないかと考えています。

後藤 ポプラ社さんだけでなく、協賛出版社の書籍も同時に読めるところが「Yomokka!」のいいところですよね。弊社も参加させていただいています。

また、弊社でも同様のサービスとして「学研図書ライブラリー」を運営しており、今のところ自社の書籍だけを扱っていますが、一部を除き、ここ数年の新刊はほぼすべて読めるようになっています。

また、ベネッセコーポレーションさんが提供している「電子図書館まなびライブラリー」では、店頭の動きが鈍かった商品が、ランキングの上位に上がってくるというケースも出てきています。

――どういったことがきっかけで、そこまで読まれるようになるのでしょうか。

後藤 例えば「夏の読み物」といった企画に選出していただくことがフックになっているのだと思いますが、そこでお子さんがその商品の良さをわかってくれれば、それが店頭にも波及していくと考えられます。電子の世界で閲覧数が上がってくるということは、みんなが読んでいるという、それ自身がレコメンデーションになります。「小学生がえらぶ!“こどもの本”総選挙」もそうですが、売上データだけでは表現できない図書の良さを誰かと共有することが、本の購買にもつながっていくのではないでしょうか。

最近、そういった効果を実感していまして、私がよく弊社の編集や営業の担当者と話すのは、公共図書館や学校の図書館に入っている本は圧倒的に強いということです。「友だちが読んでいたから私も読んでみたい」という気持ちは、購買にもつながります。図書館も店頭も、子どもにとっては同じ、本に触れる場所なので、売上データだけでなく、そういった視野を持って成長させていこうと今一度原点に立ち返って話しています。

——まさに“口コミ”の力ですね。

後藤 ただ、「みんなが読んでいる」という状況は電子の場では可視化されやすいですが、店頭ではなかなか表現しづらいですよね。

吉本 児童書や絵本の売上ランキングは、本を読む子どもたちからすると「もう知っている」というケースも多いかもしれません。

後藤 「その次の一冊」の情報が、実は電子の世界にはたくさん散りばめられているのかなと思います。

細谷 弊社は、電子化についてはほかの出版社さんと考え方がだいぶ違うかもしれません。

未就学児、特にファーストブックと呼ばれるグレードの本を多く出版しているため、その年齢層ですと、保護者の方や保育関係の方がお子さんに読んであげるという読み聞かせが中心となってきます。ページをめくるという動作や、膝の上に乗せてスキンシップを取りながら物語の世界を楽しむことを考えると、物体としての本の良さや楽しみ方を大切にしていきたいと考えています。

弊社は紙芝居も出版していますが、紙芝居がまさにそうで、場面をぬくタイミングも大事ですし、子どもたちと目と目をあわせてコミュニケーションをとりながら物語が進んでいくという特性があるので、その良さを生かすためには電子化はなかなか難しいと思います。

その中で、ロングセラーを中心とした絵本や読書の楽しみを届けるために、各種SNSを含めたインターネットの世界も活用しながらアピールしていくことに力を入れています。

——絵本を読んだ感想を言葉や写真で読者から募集するような、双方向の取り組みもされていますね。

細谷 ここ数年、読者の方と直につながることを大切にしており、実際に絵本を楽しんでいる様子を寄せていただくキャンペーンを行ったり、ささやかですけれども、キャンペーンによってはプレゼントをお送りする際にお子さんのお名前でお届けしたりといったことを行っています。

一方で、読み物や資料集といった文字の本はデジタル化の話がまったくないわけではないと思うので、あくまでも絵本や紙芝居については、子どもたちとふれあったり向き合ったりしながら楽しむことを大切にしたいという考えです。

——破けたり、ときにはかじってしまったりということも、赤ちゃん絵本ではよく聞く話ですね(笑)。

細谷 子育て中のご家庭では、セロテープで止めたような、ボロボロになった絵本がどこの本棚にもあると思います。それ自体が丸ごと子育ての記録や記憶だと思っていますので、そういった「物」ならではの思い出も大切にしていただけたら、弊社としてもとてもうれしいですね。

私も以前、まだ漢字が読めないときに母がふりがなを振ってくれた本が出てきたことがあって、これはやはり捨てられないなと今でも持っています。

童心社 細谷葉子さん

 

——素敵なエピソードですね。それでは最後に、各社のこの夏おすすめの作品をご紹介いただければと思います。

細谷 弊社では、『14ひきのシリーズ』が今年40周年を迎えます。全部で12作ある中で、『14ひきのひっこし』と『14ひきのあさごはん』の2冊が1983年7月に同時に刊行されました。世界16か国語で翻訳出版されており、世界での累計発行部数は1,500万部を超えています。野ねずみの家族が自然とともに暮らす姿を描いたシリーズで、これからもロングセラーとして長く大切に届けていきたいです。

本作をはじめ、書店様にはロングセラーをぜひ一緒に長く応援していただければと思っています。童心社にできることは力いっぱい取り組んでまいりますので、どうぞよろしくお願いします。

吉本 弊社では、柴田ケイコ先生の新シリーズ『パンダのおさじとフライパンダ』が5月に発売となりました。イチオシの絵本として、今、各書店様で大きくご展開をいただいています。

物語のおもしろさはもちろん、本作には「アポパイ ポコパイ パンパンパン」と、主人公のおさじがダンスをしながら唱える呪文が出てきます。私はリズム感や語感、音のおもしろさを伝えられるのは絵本の特権だと思っているのですが、本作はその魅力が全面に出ている作品です。

もう1点、さきほどから名前を挙げさせていただいていますが、『かいけつゾロリ』は昨年35周年を迎えました。35年というと、一人の人が大人になって、家庭やお子さんを持っていらっしゃるような年月ですよね。

そして、ゾロリはすでに親御さんご自身が子どもの時に読んでいて、お子さんにも「おもしろい」と実感を持ってすすめていただける本だと思います。親子で共有できるシリーズとして、これからも愛していただければうれしいです。

後藤 絵本ということで申し上げますと、『ぴよちゃんのえほん』シリーズのいりやまさとしさんが、今年、画業20周年を迎えられます。6月にも新刊『ぴよちゃんとひまわり』が発売となりますが、現在も改訂版や新刊を発売しており、本シリーズも、日本国内だけでなく世界を含めた累計発行部数が1,000万部を突破しました。

先日開催されたイベントでも、「子どもの頃、『ぴよちゃん』の絵本で育ちました」という若いお母さんが、「今度は生まれた子どもに買っていきます」とおっしゃってくださって、私もロングセラーの力をまざまざと感じています。

また、『しましまぐるぐる』というファーストブックのシリーズもおかげさまで好評をいただいていますが、この『しましまぐるぐる』の少しお兄さん・お姉さん版である『しましまぐるぐるたいそう』が7月に発売となります。立ち上がったり、体を動かしたりできるようになったお子さん向けに、オリジナルの歌と体操が楽しめる、次の段階へのスイッチメディアとして楽しんでいただける内容です。

本だけでなく、アニメーション動画と 、「おかあさんといっしょ」(NHK)で “たいそうのお兄さん”を務められたよしお兄さんが登場する実写動画が付いていて、親子で一緒にからだを動かすことができます。人気シリーズにひさかたぶりに強いコンテンツが加わりますので、どうぞよろしくお願いします。

 

(2023年5月29日実施)