見てくれ! オレの下星崎小鶴ちゃんを!
春、高校入学のシーズン。氏岡佐(うじおかたすく)は「青春を謳歌するぞ!」と胸をはずませていた。しかし、彼は192センチの巨漢で、生まれつき表情筋が硬く、子どもの頃のやんちゃで顔に大きな傷があるため、“怖い人”だと思われ、目が合っただけで人が逃げ出す始末。それどころか、ケンカなんてしたことないのに悪い噂が立つ……。これでは友だちなんてできやしない。でも彼は諦めていない。青春を謳歌することを!
本作『君はおれの優しくない春』は、そんな氏岡君が恋をするラブコメである。その相手とは、下星崎小鶴ちゃん。彼女はこんな人なのだ。
ラブコメのヒロインとしては、ありえないほど濃い眉毛。「風呂上がりにドライヤーをかけたら、きっと髪の毛が爆発するよね」ってくらいの毛量。そしてクセ毛。でもそれがいい。それが好き!
「下星崎ちゃん、めっちゃかわいい!」
「好き!」
「大好き!」
下星崎ちゃんが、いかに魅力的か。それを訴えるために、このレビューを(許される限り)下星崎ちゃんのコマで埋め尽くそうと思う。それ以外を見たければ、コミックスを買って読んでほしい。切に!
下星崎ちゃんは氏岡君と同じクラス、それも隣の席だった(これは偶然だが、ラブコメ的には必然だ)。彼女を観察していると、なにか様子がおかしい。
挙動不審者? 極度のコミュ障? 不思議ちゃん?
違うのだ!
子どもの頃からドジばかり。どうにかしようと頑張れば頑張るほど、素っ頓狂な失敗をしてしまう。だから、まわりの人を巻き込まないように、ずっと1人でいようと彼女は考えた。彼女は氏岡くんと違って「青春を謳歌しない!」と心を閉ざした人なのだ。でも氏岡君から「いつも一生懸命だなって……」「それってなんにも悪いことじゃないから」と言われてオープンハート! 「下星崎さんと友だちになりたいんだ!」という氏岡君の言葉に大喜びする。
と、そこに運悪く、すごいスピードでサッカーボールが!
身を挺して氏岡君を守る下星崎さん!
きゅんっ。
なんか、今、音が鳴ったぞ! 氏岡君の胸あたりで鳴ったぞ! 「友だちになりたい」って言ってから1分、いや30秒も経たないうちに、恋になったぞ! このシーンで、頭にVaundyの「踊り子」が流れてもおかしくないはずだが、私の頭ではなぜかポケモンが進化したときの音が鳴った。
はたまた別のシーン。根も葉もない悪い噂のせいで、怖い先輩から呼び出された氏岡君。
この俺に挨拶も無したぁ……
何様のつもりだ
ッア゛——ン!??
三角コーンを頭にかぶって怖い先輩に突撃し、「ぼうりょくはんた〜い!!」と訴える下星崎ちゃん。
そして……
くぅ~~~。
もう「くぅ~~~」としか言えねぇ。
怪しいギャル登場!
こうして、氏岡君と下星崎ちゃんの友だち付き合いが始まった。これまで友だちがいなかったふたり、それも見るからに怖い人と挙動不審な女の子……。めちゃくちゃギクシャクしている。まわりもギョッとする。
これは青春なのか?
青春を謳歌するって、これでいいのか?
そんなある日、怪しげなギャルが現れる。氏岡君に容赦ない壁ドンを食らわせて……
氏岡って下星崎ちゃんと付き合ってんの?
彼女の名は丹波冬子。氏岡君がうまく答えられないでいると……。
じゃあ氏岡の片思いか
好きなんでしょ
下星崎ちゃんのことが
詰める! 詰める! そして……
私がお前の恋路に手を貸してやってもいい
というのだ。
実は丹波冬子、漫研に所属してラブコメを描いている。「誰もがキュン(ハートマーク)する作品を描くためには、やっぱリアリティが大切だと思って……!」と、恋路に手を貸す代わりに取材させろと迫ってきたのだ。
なにこれ、なんのメタ構造?
しかし丹波冬子、すべてにおいて直球しか投げない女性なのだ。そして荒っぽい。氏岡君を掃除道具のロッカーにブチ込んで、下星崎ちゃんを呼び出して聞く!
下星崎ちゃんは氏岡のこと好き?
ド直ッ球!
すると……
地獄から天国へ! 大阪梅田のスカイビルか、横浜ランドマークタワーのエスカレーターくらいの勢いで、氏岡君の気持ちは急上昇。しかし……
一瞬にして潰える、氏岡君の恋。
さて、どうなる?
最後に残りもう1枚、最高の下星崎ちゃんのカットを皆さんに。
両手いっぱいにコンビニまんを抱えて、虚ろな目をする下星崎ちゃん。
言っとくけど、そのコンビニまんは激アツだぞ!
*
(レビュアー:嶋津善之)
- 君はおれの優しくない春 1
- 著者:前野温泉
- 発売日:2025年08月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065402610
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年9月23日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。