「婚約破棄すると言ったんだよ、メルフィー」
巻頭4ページ目で、いきなり宣告されたのはメルフィー・ランバート。義母に疎んじられ、子どもの頃から食事を作らされていた彼女の別名は「飯炊き令嬢」。元許婚のシャロー様は、社交界でも噂になるほどの“魔法の才”を発現させた伯爵家の長男で、メルフィーの義妹アバリチアと新たに婚約したという! ムキー!
居場所を失ったメルフィーは、義母と義妹の言いつけで、「心まで氷の魔術師」と悪名高い“冷酷公爵”こと、ルーク・メルシレス公爵の元に料理人として働きに出ることに。それは、料理人を次々とクビにするという公爵の元にメルフィーを送り込み、彼女を路頭に迷わせようという義母と義妹の陰湿なたくらみだった。
スラリとした体型に蒼色の髪、美しい容貌の公爵は、「私を満足させられなければすぐにでも出て行ってもらう」と言い放つ。そして、こんなことを言うんですぜ。
はい、晩御飯づくりに悩む皆さんの地雷を踏んだ!
そういうときは手間がかからず、洗い物が少なくて済む「鮭のホイル焼き」とか「そうめん」を提案するものなの!
しかし、ここはサンルーナ王国。アルミホイルやそうめんは存在しない(たぶん)。
このルーク公爵、オーダーは雑なのに、食へのこだわりは人一倍。「私は食に命をかけている」と語り、氷魔法で食べ物が腐らない魔道具(冷蔵庫)を作ったり、新鮮な魚や肉が手に入るように交通網を整備して市場を拡大したりと実に熱心。というのもルーク公爵は、長い戦火で廃れた食文化の復興を目指していたのだ。なら、余計に「別になんでもいい」はないだろうに……、と思うけれども、そこはそれツンツンのツンの設定だ。
しかし、ここでトラブル発生! メルフィーに付き添ってきたメイド(義妹アバリチアの手先)が、食料庫や冷蔵庫を荒らしてトンズラこいたのだ。どうする、メルフィー!
メルフィー強い子、料理の子!
使えそうな食材をかき集めて作ったのはコレ!
はいキタ、ドーン。
ルーク公爵が「『出逢いの』…とはどういう意味だ?」と聞くと、「私は自分が作ったお料理に名前を付けるんです。お料理も人の出逢いも一期一会ですから」と答えるメルフィー。あざとい! しかし、それくらいのガッツがないと、明日の朝にはルーク公爵に追い出されかねないのだ。その意気やよし!
そしてルーク公爵は、表情を変えず、でも少し頬を紅潮させて料理を食べ……
デレデレのデレですぜ!
食べたのが「出逢いのアクアパッツァ」だけに、こいつは一目惚れだね!
かくしてメルフィーはルーク公爵の料理人として居場所を得る……って、いい調子で第1話目を紹介したけれど、この漫画のタイトル『婚約破棄された飯炊き令嬢の私は冷酷公爵と専属契約しました ~ですが胃袋を掴んだ結果、冷たかった公爵様がどんどん優しくなっています~』が、すでに全部説明してくれているじゃないか!
この漫画、レビュアー泣かせですよ。マジで。
早く「ざまぁ!」を見せてくれ!
この漫画、なんといってもメルフィーのキャラクターが魅力的。「メルフィー・ランバートにお任せあれ!」を決め台詞に、ルーク公爵の体調を気遣い、心を込めて料理を作る彼女が、彼の心をデレデレに溶かしていくのは、かなり幸福感(口福感)高し。魔術がもてはやされるサンルーナ王国でも、美味しいご飯を作れる能力は、実は魔術以上のスキルなのだ。
ルーク公爵以外のキャラクター、メイドのエルダと執事のリトルのコンビや、使用人の食事担当ミケットも善良で可愛らしく、このフワッとした世界観は非常に居心地がいい。特に癒やしなのが、このルフェード。
ルーク公爵の友人にして、狼の姿をした魔獣なのだが、メルフィーの「やわらか肉団子の元気復活薬膳スープ」で元気モリモリに。以後なにかと彼女の料理を一口もらうべく、そばに付くようになる。このルフェードのシベリアンハスキー的な下がり眉と、モフモフ感が堪りません!
第1巻ではそのほかに、朝食を食べない勢のルーク公爵を、「ナズナのキッシュ」や「もぎたてレモンのフレンチトースト」で改心させたり、全編楽しい展開なのだが、そろそろ出てくると思うんだよね。義妹アバリチアのちょっかいが! それをいかにして料理の力ではねつけるか? はたまたルーク公爵が……? 物語はまだまだこれからおもしろくなるところ。読み逃しなく!
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(レビュアー:嶋津善之)
- 婚約破棄された飯炊き令嬢の私は冷酷公爵と専属契約しました 1
- 著者:青空あかな 七福あくび 黒裄
- 発売日:2025年07月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065399125
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年8月25日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。