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稀代の悪女が人の体を乗っ取るホラー!共生生活の先には!?|『間宵の母』続編『中にいる、おまえの中にいる。』歌野晶午

『中にいる、おまえの中にいる。』歌野晶午

『間宵の母』から6年、ついに続編が到来。己代子を中に入れたまま、蒼空はどこへ向かうのか?

2019年に刊行された『間宵の母』。間宵己代子が死後に孫娘の中に入り込んでその思考と体を乗っ取り、周囲を地獄へと染めていくホラーであるーーと書いた時点で前作のネタバレなのだが、ここまでを説明しないと続編『中にいる、おまえの中にいる。』を紹介できないのでお許し頂きたい。大丈夫、それがわかっていても『間宵の母』は充分楽しめる。とまれ、まずはぜひ前作からお読み頂きたい。

前作のラストで己代子は18歳の青年・栢原蒼空かし はら あ おの中へと移った(これもネタバレだが)。蒼空は己代子と共生しながら、そのうち孫娘のように自我が消えてしまうのを恐れていた。だが共生は続く。どうやら己代子は蒼空を上手く乗っ取れないようなのだ。

そこで寄生先を他の人物にできないかと考え、蒼空に真砂という町へ行くように指示した。そこにおあつらえ向きの寄生先があるという。しかし蒼空は真砂で虐待されている少女に会い、ある行動に出たーー。

前作はとにかく不気味でそりゃもう怖かった。それに対して今回はむしろ特殊設定ミステリの趣が強い。もちろん己代子が急に、かつ一時的に蒼空を乗っ取る場面などゾクリとさせる箇所もあるが、己代子と蒼空が協力して物事に当たる様子はなんだかチームのようで、わくわくさせられるのである。

己代子が蒼空を乗っ取るための条件は何なのか、寄生先を他の人物に変えるにはどうすればいいのか。それらを探っていく様子はミステリだし、その過程で巻き込まれるトラブルへの対処も「そう来たか」の連続で飽きさせない。

だが何といっても最大のサプライズはラストだ。被虐待児を助けるための蒼空の決意と計画に感動したあとの、まさかの、本当に「えっ?」と声が出るくらいまさかの結末には心底やられた。そうだ、歌野晶午だもの、一筋縄で行くわけなかったよ!

怖さと不気味さに満ちた前作が思わぬ方向に進化した続編である。前作と併せてどうぞ。

 

中にいる、おまえの中にいる。
著者:歌野晶午
発売日:2025年07月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784575248296

 

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『中にいる、おまえの中にいる。』の試し読みが公開されています。

『中にいる、おまえの中にいる。』の試し読みはこちら

『小説推理』(双葉社)2025年9月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載