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漫画『親友は悪女』などでテレビドラマ化連発!「頑張る女性」を応援するDPNブックス編集部責任者の坪内健一郎さんインタビュー

Ⓒ「親友は悪女」製作委員会2023

 

電子コミックから火がついて、紙の単行本化、さらにはテレビドラマ化される作品も増えてきましたが、和田依子さんの『親友は悪女』(電子版:DPNブックス、紙書籍版:小学館)もその作品の一つです。今年1月からBSテレ東で放送されたあと、4月から地上波(テレビ東京)でも放送中です。純粋で友だち思いの堀江真奈役を清水くるみさんが、その“親友”である高遠妃乃役を山谷花純さんが演じ、その愛憎劇が人気を集めました。

電子コミックを中心に本作などのヒット漫画を輩出しつづけているのは、デジタルコンテンツ事業を中心としたIT事業を展開するエムティーアイと、ディーピーエヌの共同事業であるDPNブックス。IT事業会社ならではの企画メソッドとメディアミックスのとらえ方を、編集責任者であるエムティーアイの坪内健一郎さんに伺いました。

坪内健一郎(つぼうち・けんいちろう)氏

エムティーアイ ライフ・エンターテインメント・スポーツ事業部 music.jp事業部 コミック出版部部長
北海道出身。はこだて未来大学卒業。2006年にエムティーアイに入社し、BtoBのソリューション提供事業を担当。2014年にBtoC事業部門に異動しmusic.jp、コミック.jpのプロモーションを担当し、CM、web広告、リアルプロモーションなどを行う。2017年にオリジナルのコミックを制作する部門を立ち上げ、現在は編集責任者としてコミックの制作を指揮する。

 

30代~40代女性読者が「モヤっとする人」を徹底して取り上げる

――和田依子さんの『親友は悪女』をはじめ、NHKにて丸山礼さん主演でドラマ化された『ワタシってサバサバしてるから』(漫画:江口心、原作:とらふぐ、紙書籍版:小学館)など映像化されたヒット作が多いですが、どのようなコンセプトで作品を作られているのでしょうか?

6つの電子コミックレーベルに分類して、そこにこだわった作品作りをしています。中でも、一番作品数が多いのが、『親友は悪女』をはじめとする“レディコミ”というコンセプトのレーベル「コミックなにとぞ」です。『ワタシってサバサバしてるから』もそうですね。

ただ“レディコミ”とは、一般的に知られている劇画タッチの、いわゆるレディースコミックのことではありません。あくまで社内用の呼び方で、読者である30代~40代の女性の悩みをテーマにしたコミックのことを指します。

これは、売れている電子コミックを研究したマーケティングに基づくコンセプトに沿ったレーベルで、他のレーベルも同様です。『親友は悪女』では、純粋なキャラの主人公・堀江真奈の“親友”である高遠妃乃が、友情を装いながら裏ではエゴイストな悪女なんです。いろいろ企んでいて、真奈が好きな人を横取りしようとしたり男性陣を翻弄したりします。

『親友は悪女』
著者:和田依子
発売日:2022年12月
発行所:小学館
価格:540円(税込)
ISBN:9784098615537

 

『ワタシってサバサバしてるから』
漫画:江口心、原作:とらふぐ
発売日:2022年05月
発行所:小学館
価格:540円(税込)
ISBN:9784098613618

 

――読者の女性から見れば、「なんなの、この人!?」と不気味に感じてモヤっとするわけですね(笑)。

“レディコミ”には、ほかにも不倫ものやサイコパス女子をテーマにした作品もあります。『ワタシってサバサバしてるから』の主人公の網浜奈美はいわゆる「サバサバ系女子」なのですが、ただしあくまで本人が“自称”しているだけであって、読者から見れば言いたいことを言っているだけ。周囲の空気を全く読めない人です。ですので読者は網浜の言動にモヤっとするというわけです(笑)。

――同じ女性向けコミックレーベル「カフネ」の場合はどうなのでしょう?

「カフネ」のコンセプトは「溺愛」です。昔から愛される王道の恋愛コミックで、イケメンが出てきて主人公が溺愛されるというパターンです。現代ものも異世界的なものもあります。ほかにはBLやTLのレーベルもありますし、さらに今年は「DoPoooN」(ドップーン)というWEBTOONのレーベルも立ち上げました。

 

『その初恋は甘すぎる~恋愛処女には刺激が強い~』

 

『実は私、溺愛されてました!? ~最低彼氏から最強彼氏へ~』

 

電子書店での流行りも意識し企画テーマを設定

――“レディコミ”のコンセプトの中で、具体的に『親友は悪女』の企画はどのように立ち上がったのでしょうか。

このコミックを刊行したのはほぼ5年前ですが、担当編集者の中で「(好きな)男性を(横)取る女性」ってすごく嫌だよね、みたいな話が出たんです。一方、昔から電子書店「コミック.jp」を運営しており、電子書店での流行りを意識するようにしていました。

そのころの流行りとして、「男性を(横)取る」という要素が結構あったのです。そこで、コンセプトとしても、電子書店での流行りからも、「男性を横取りして奪う女性」というテーマが良いのではないかということになったわけです。親友はそういう「悪女」であるという設定ですね。

――ネットからネタを探してくることも多いのですね。

“レディコミ”というコンセプトを踏まえたうえで、編集者がネタを探してきます。『ワタシってサバサバしてるから』の題材は「自称サバサバ女子」。本来のサバサバ女子は頼りになる存在だけど、「自称サバサバ女子」は本人はサバサバしていると思っていますが、周りからはネチネチ系と思われているような存在です。弊社の編集者はそういうコミックのネタ探しが好きなんですよ(笑)。

今の世の中では「推し活」もすごく流行っていますよね? 弊社も流行りにのって、「推し活」というネタを活かし、『推しが上司になりまして』という作品も生まれています。ただ、必ずしも時代の先頭に立ってやろうという意識はないですね。あくまで、ある程度「多くの読者が求めているテーマ」を探すイメージでやっています。

――こうしたネタを具体的なストーリーに落とし込むときに、気を付けていることはありますか?

ストーリー面では、読者を「モヤっとさせる」ことはもちろんですが、モヤっとさせたあとに「スカッとさせる」ことも大事にしています。『親友は悪女』の場合は、高遠妃乃がいろいろ悪だくみをして純真な堀江真奈や男性たちを追い詰めていきますが、最後にどうなるのか、という展開ですね。テーマが不倫なのか、あるいは社内のあるあるネタなのか、切り口はいろいろあると思うのですが、読んでスカッとできるようなものを意識しています。

――実際のオフィスの現場感覚を大事にされているわけですね。

たしかにウチの作品は、不倫系にしても大人の恋愛にしても、オフィスを舞台にしたものが多いかもしれませんね。そうしたリアリティは作品の中で大事にしているところですね。ですから、「こんなセリフは実際のオフィスの現場では言わないだろう」とか「そんな行動は実際にはとらないだろう」と疑問に思うところは気をつけております。リアリティへのこだわりは、ウチの場合はかなり強いと思いますね。

もちろん基本的には作家さんのほうで取材をしていただくわけですが、オフィス事情であればこちらが作家さんの質問にお答えすることも多いです。

 

ドラマ化してもキャラクターの「あざとさ」は大事にしていく

――今回、『親友は悪女』や『ワタシってサバサバしてるから』がドラマ化されましたが、映像化にあたって意識していることはありますか?

もともと映像化に向けてコミック作りをしているかというと、あまりそこは意識していません。ドラマ化される作品が増えてきましたが、今でもそうです。あくまでも「コミックとしておもしろいかどうか」が重要と思います。映像とコミックはやはり別物ですよね。ですから、実際に映像化していただく際にDPNブックスとして大切にしたいのは、あくまでコミックとしての芯の部分ですね。

――例えば、『親友は悪女』の場合はどのようなところでしょうか。

この作品で読者がモヤっとするのは悪女である高遠妃乃のあざとさです。コミックの場合だと、普段の表情と悪だくみをしているときの表情をコミック作家さんが見事に描き分けていただいているので、妃乃があざといことを考えているのがわかりやすいんです。さらにコミックの場合は読者がストーリーの中で登場人物の感情を自分で補完しながら読んでいますから、それがどんな意味なのか理解できる。

しかし、映像は視聴者が見たままの印象で判断するところがあるので、映像ではあざとさがうまく伝わらない可能性もあります。逆に、コミックと同じ描写を映像でやると演出が過剰でコミカルになってしまい、あざとさがなくなってしまうこともある。

ですから、「このセリフはホントにあざといか」「大げさすぎないか」などリアリティの部分についてはドラマ制作の方とかなりやりとりをしました。

――印象的なシーンはありましたか?

その意味では、主演のお二人がコミックのキャラを意識して演じていただけたシーンは良かったです。とくにインパクトが強かったのは、第5話で真奈が好意を寄せている男性・東雲を妃乃が「査定してあげる」といって薄笑いを浮かべる場面です。

そのあざとさが映像からもバッチリ伝わっていて、「妃乃怖っ!」と思えるような場面になっています。この「査定してあげる」と言うシーンでは、真奈も妃乃がどんな人間なのか薄々わかってきているだけに、怖さが増幅していますね(笑)。

また、あざといテクニックという点では、第6話で男性に好意を抱かせるための常套文句である“「さしすせそ」のセリフ”を妃乃が言い放つシーンもおもしろかったです。

 

▲妃乃が東雲を「査定してあげる」と言うシーン
Ⓒ「親友は悪女」製作委員会2023

 

各チャネルに合ったプロモーションを実施し、読者との接点を多様化

――今後、ドラマにしたい作品はありますか?

全部の作品をやりたいです!! 少なくとも、30代~40代の女性の興味を引くコミックを揃えていると思っていますので、あとはプロデューサー様がテレビ局の放送時間帯や俳優さんの個性に合わせて検討いただけると思っています。DPNブックスからは持っているストーリーの魅力をお伝えするので、テレビ局の皆様にはこれを一緒に映像化しませんか?という感じです。

――その意味では、今回のドラマ化を含めて、DPNブックスとしては映像化の展開をより推進していこうということでしょうか?

ドラマ化だけにこだわっているわけではないんです。それぞれの作品がなるべく多くの場所で読者と接点が持てるようにする、というのが弊社の基本的な考え方です。おもしろいコミックを作っている自負はありますので、それをいかに広く読者に届けるのかということ。それは今回のようなテレビドラマであってもいいですし、紙の書籍や、あるいはツイッターによる口コミで広がってもいい。弊社自身も「コミック.jp」という電子書店を運営していますので、自らネット広告で宣伝もしています。

もちろん、テレビドラマの場合は瞬間的なインパクトが大きく、これまで弊社のコミックに触れてこなかった人たちにもアピールできます。一方、コミック好きな人がやってくるリアル書店の店頭に置いてもらえば、コミック好きの人に訴求できます。

それぞれのツールには特徴や性格があり、どれか一つに絞るということではない。それぞれのツールの利用者に合ったプロモーションを行い、トータルで多くの人に作品が触れられるようにするのが、弊社のIP展開の考え方です。もちろんベストは、テレビやリアル書店やネットなどが全部同時期に連動して読者に広がっていく形ですけれどね。

――読者と作品の接点を広げていらっしゃるわけですが、その先にある最終的なゴールは何ですか?

最終的なゴールというわけではないですが、「コミックなにとぞ」などのレーベル名が大手出版社の雑誌名のように浸透してくれたらうれしいです。もちろん訴求する中心は作品なのですが、ゴールとしてはそんな感覚があります。各レーベルはそれぞれのコンセプトがはっきりしていますからね。キャッチフレーズもあるんですよ。「コミックなにとぞ」の場合は「闘う女たち、最前列へご招待~理想と現実のはざまで日々頑張る女性を応援します~」ですね。

――なるほど、作品を読んだ読者を元気づけるレーベルであることを浸透させたいわけですね。

実際に「コミックなにとぞ」の各作品は、読者である30~40代の女性に対する「応援」コミックなんですよ。『親友は悪女』の真奈や妃乃にしても、『ワタシってサバサバしてるから』の網浜にしても、「闘う女」なんですよ。『親友は悪女』の妃乃もめげずに妃乃らしさを貫いていますし、『ワタシって~』の網浜になると、空気が読めなくて自意識過剰なためにどんどん墓穴を掘っているにもかかわらず、本人はめちゃくちゃ自信持って楽しく生きている。

『ワタシって~』はまだ連載中ですが、どんどんストーリーは自由になっていて、網浜がどうなっていくのか自分も楽しみにしています! 個人的には、今はますますグローバルな時代になっているので、海外活躍編もみてみたいですね。

 

【出版社情報】


DPNブックス
公式HP:https://books.dpn.jp/
DPNブックス公式Twitter:@dpnbooks
コミックなにとぞTwitter:@comic_nanitozo

 

【ドラマ情報】

【番組名】「親友は悪女」
【放送日時】2023年4月11日から毎週火曜 深夜3時25分~放送中(全12話)
【放送局】テレビ東京
【配信】NTTドコモ「Lemino」で独占配信中
【原作】和田依子『親友は悪女』(DPNブックス)
【主演】清水くるみ、山谷花純
【監督】吉川鮎太、大内隆弘、井上雄介
【脚本】本山久美子、岡庭ななみ
【プロデューサー】小林教子(テレビ東京)、奥村麻美子(ホリプロ)
【コンテンツプロデューサー】浅岡彩子(BSテレ東)、髙橋一馬(BSテレ東)、川島啓資(BSテレ東)、渡辺瑞希(BSテレ東)
【企画協力】33コレクティブ
【制作】BSテレ東/ホリプロ
【製作・著作】「親友は悪女」製作委員会2023