「伊与原新」小説 2024年ベストセラーランキング発表
伊与原新さんは、今年1月に直木賞を受賞した『藍を継ぐ海』をはじめ、科学をテーマにしたエンターテインメント小説の書き手として知られています。地球惑星科学の博士号を持ち、大学教員として研究や教育に携わりながら、2010年に『お台場アイランドベイビー』で第30回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。その後は、豊富な知識と科学的な視点を織り込みつつ、情感あふれる小説を生みだしており、7月30日(水)には、国際舞台で活躍した女性科学者・猿橋勝子の生涯を描く『翠雨の人』が刊行されます。
短編の名手としても定評があり、ウミガメや混狼、隕石などの自然科学的なテーマと人間ドラマが融合する『藍を継ぐ海』や、悩みや葛藤を抱える人々の孤独や希望を描いた直木賞候補作『八月の銀の雪』、月や星、素粒子をモチーフにした新田次郎文学賞受賞作『月まで三キロ』など、科学的なきっかけが人々に変化をもたらす様を描いています。
いずれも専門的な知識のない人にもわかりやすく、読みやすい語り口で、科学のおもしろさも伝わってくるのが伊与原作品の特徴。科学に苦手意識がある方も、人と人との関りや、再生や希望、情熱など、心の機微を丁寧に映し出す物語とともに触れれば、また違った側面が見えるかもしれません。
そこで今回は、2024年の販売冊数をもとに集計した、伊与原さんの小説ベストセラーランキングをお届けします。各作品のあらすじもあわせてご紹介しますので、ランキングを参考に、ぜひ書店店頭で気になる1冊を手に取ってみてください。
※ランキングは2024年の販売冊数を集計しています(集計期間:2024/1/1~2024/12/31)
※日販調べ
2024年に一番人気の作品は…?!
伊与原新さんの小説で2024年に一番人気があった作品は、『宙わたる教室』でした。
『宙わたる教室』は、東京都新宿区にある都立の定時制高校を舞台にした青春科学小説です。年齢も背景もさまざまなものを抱える生徒たちが、研究者の経歴を持つ新人教師・藤竹に出会い、科学部を結成。彼の指導のもと、「火星のクレーター」を再現するという前代未聞の実験で、学会発表に挑戦する姿を描いています。
本作は、大阪にある定時制高校の科学部で実際にあった出来事をベースにしているフィクションで、学習障害を抱える青年や起立性調節障害で不登校になった少女、集団就職で上京し、進学を諦めた老人などが登場。学ぶことの意味や人とのつながり、新たな挑戦などをテーマに、科学を通じて人生を再構築していく人物たちの様子が心に響きます。
地学や天文学の知識も豊富に盛り込まれており、知ることのおもしろさも十分に味わえる本作は、2024年度の青少年読書感想文全国コンクールの課題図書(高校生部門)に選出されました。また、NHKで窪田正孝さん主演のドラマが放送されたことでも話題を呼びました。
『宙わたる教室』
著者:伊与原新
発売日:2023年10月
発行所:文藝春秋
定価:1,760円(税込)
ISBN:9784163917658
東京・新宿にある都立高校の定時制。
そこにはさまざまな事情を抱えた生徒たちが通っていた。負のスパイラルから抜け出せない21歳の岳人。
子ども時代に学校に通えなかったアンジェラ。
起立性調節障害で不登校になり、定時制に進学した佳純。
中学を出てすぐ東京で集団就職した70代の長嶺。「もう一度学校に通いたい」という思いのもとに集った生徒たちは、理科教師の藤竹を顧問として科学部を結成し、学会で発表することを目標に、「火星のクレーター」を再現する実験を始める――。
(文藝春秋BOOKS『宙わたる教室』より)
「伊与原新」2024年小説 ベストセラーランキング第2位~第10位
第2位『月まで三キロ』
- 月まで三キロ
- 著者:伊与原新
- 発売日:2021年07月
- 発行所:新潮社
- 価格:781円(税込)
- ISBNコード:9784101207629
「この先にね、月に一番近い場所があるんですよ」。死に場所を探す男とタクシー運転手の、一夜のドラマを描く表題作。食事会の別れ際、「クリスマスまで持っていて」と渡された黒い傘。不意の出来事に、閉じた心が揺れる「星六花」。真面目な主婦が、一眼レフを手に家出した理由とは(「山を刻む」)等、ままならない人生を、月や雪が温かく照らしだす感涙の傑作六編。新田次郎文学賞他受賞。
(新潮社公式サイト『月まで三キロ』より)
第3位『オオルリ流星群 』
- オオルリ流星群
- 著者:伊与原新
- 発売日:2024年06月
- 発行所:KADOKAWA
- 価格:880円(税込)
- ISBNコード:9784041148815
人生の折り返し地点を過ぎ、将来に漠然とした不安を抱える久志は、天文学者になった同級生・彗子の帰郷の知らせを聞く。手作りで天文台を建てるという彼女の計画に、高校3年の夏、ともに巨大タペストリーを作ったメンバーが集まった。ここにいるはずだったあと1人をのぞいて――。仲間が抱えていた切ない秘密を知ったとき、止まっていた青春が再び動き出す。
喪失の痛みとともに明日への一歩を踏み出す、あたたかな再生の物語。(KADOKAWA公式サイト『オオルリ流星群 』より)
第4位『八月の銀の雪』
- 八月の銀の雪
- 著者:伊与原新
- 発売日:2023年06月
- 発行所:新潮社
- 価格:737円(税込)
- ISBNコード:9784101207636
憂鬱な不採用通知、幼い娘を抱える母子家庭、契約社員の葛藤……。うまく喋れなくても否定されても、僕は耳を澄ませていたい――地球の中心に静かに降り積もる銀色の雪に。深海に響くザトウクジラの歌に。磁場を見ているハトの目に。珪藻の精緻で完璧な美しさに。高度一万メートルに吹き続ける偏西風の永遠に。表題作の他「海へ還る日」「アルノーと檸檬」「玻璃を拾う」「十万年の西風」の五編。
(新潮社公式サイト『八月の銀の雪』より)
第5位『藍を継ぐ海』
- 藍を継ぐ海
- 著者:伊与原新
- 発売日:2024年09月
- 発行所:新潮社
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784103362142
なんとかウミガメの卵を孵化させ、自力で育てようとする徳島の中学生の女の子。老いた父親のために隕石を拾った場所を偽る北海道の身重の女性。山口の島で、萩焼に絶妙な色味を出すという伝説の土を探す元カメラマンの男――。人間の生をはるかに超える時の流れを見据えた、科学だけが気づかせてくれる大切な未来。きらめく全五篇。
(新潮社公式サイト『藍を継ぐ海』より)
第6位『フクロウ准教授の午睡 』
- フクロウ准教授の午睡
- 著者:伊与原新
- 発売日:2022年07月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:814円(税込)
- ISBNコード:9784167919085
舞台は学長選挙の迫る地方国立大学。
候補者をめぐる怪情報が飛び交い、権謀術数のうずまく学校に赴任してきたのは准教授の“フクロウ”こと袋井。
昼はいつも眠たげで無気力なのに、夜になると活動を始める“夜行性”のフクロウは学内で次々と起こるトラブルに首を突っ込み、思わぬ方法で有力教授のスキャンダルを暴きだす。
果たして彼の目的とは――。袋井の暗躍によって選挙のゆくえは二転三転。
ラストまで油断厳禁!
あなたは何回ダマされる?(文藝春秋BOOKS『フクロウ准教授の午睡 』より)
第7位『青ノ果テ―花巻農芸高校地学部の夏―』
- 青ノ果テ
- 著者:伊与原新
- 発売日:2020年02月
- 発行所:新潮社
- 価格:737円(税込)
- ISBNコード:9784101801827
東京から深澤が転校してきて、何もかもおかしくなった。壮多は怪我で「鹿踊り部」のメンバーを外され、幼馴染みの七夏は突然姿を消した。そんな中、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る自転車旅に出る。花巻から早池峰山、種山高原と走り抜け、三陸を回り岩手山、八幡平へ。僕たちの「答え」はその道の先に見つかるだろうか。「青」のきらめきを一瞬の夏に描く傑作。
(新潮社公式サイト『青ノ果テ―花巻農芸高校地学部の夏―』より)
第8位『ブルーネス 』
- ブルーネス
- 著者:伊与原新
- 発売日:2020年04月
- 発行所:文藝春秋
- 価格:1,078円(税込)
- ISBNコード:9784167914738
「津波監視システムの実現に手を貸して欲しい」――。
東日本大震災後、地震研究所を辞めた準平は、学界で異端視される武智に誘われる。
武智のもとに集まったのは、海洋工学や観測機器などのエキスパートながら、個性が強すぎて組織に馴染めない“はみ出し者”たち……。
前人未到のプロジェクト、はたして成功するのか!?(文藝春秋BOOKS『ブルーネス 』より)
第9位『リケジョ!』
- リケジョ!
- 著者:伊与原新
- 発売日:2014年02月
- 発行所:KADOKAWA
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784041012208
貧乏大学院生で人見知りの律は、不本意ながら成金令嬢・理緒の家庭教師をすることに。科学大好き小学生の理緒は彼女を「教授」と呼んで慕ってくる……無類に楽しい、理系乙女ミステリシリーズ誕生!!
(KADOKAWA公式サイト『リケジョ!』より)
第10位『コンタミ 科学汚染』
- コンタミ科学汚染
- 著者:伊与原新
- 発売日:2020年11月
- 発行所:講談社
- 価格:836円(税込)
- ISBNコード:9784065215562
「ニセ科学」――それは、根拠のないでたらめな科学用語をちりばめた、科学を装う「まがいもの」。大学院生の圭は、新進気鋭の生物学者・宇賀神と共に、ニセ科学批判の急先鋒である蓮見教授の元を訪ねる。そこで告げられたのは、宇賀神のライバルであり、想い人でもあった女性研究者の美冬に関する信じ難い事実だった。神秘の深海パワーで飲むだけでがんが治る、「万能深海酵母群」。「VEDY」と名付けられたニセ科学商品の開発に手を貸し、行方をくらませたのだ。
ニセ科学を扱うことは、研究者にとって「死」に等しい。なぜ彼女は悪魔の研究に手を染めたのか? 圭は宇賀神に命じられ、美冬の消息を追うが……。すべての真相が明らかになったとき、「理性」と「感情」のジレンマが、哀しい現実を突きつける――。(講談社公式サイト『コンタミ 科学汚染』より)
著者のプロフィール
伊与原新
いよはら・しん。1972年、大阪府生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。2019年、『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。2024年、『宙(そら)わたる教室』が第70回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(高等学校の部)に選出、NHKでドラマ化され話題となる。2025年、『藍を継ぐ海』で第172回直木三十五賞を受賞。著書に『八月の銀の雪』『オオルリ流星群』『青ノ果テ―花巻農芸高校地学部の夏―』『磁極反転の日』『蝶が舞ったら、謎のち晴れ 気象予報士・蝶子の推理』『ブルーネス』『コンタミ 科学汚染』などがある。
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