思わず背後を振りかえってしまうほどの恐怖を感じる「配信ミステリー」。
配信された動画を視聴するとき、画面の向こう側には同じ現実を生きている人間がいる。しかし私たちはそれを現実ではなく、どこか遠くの「コンテンツ」として受け取ってはいないだろうか? あるいは別の言い方もできる。画面を隔てた距離があるからこそ、配信者は現実をコンテンツとして私たちに振る舞えているのだと。
本作で描かれるのは、配信が終了したあとのコンテンツではない「現実」だ。動画配信が定着した令和のいま、収録作(全5編)に登場する配信者のレパートリーも多種多様だ。たとえば「暴露系」では暴露系配信者の千里が、知り合いの記者である猩野から競合相手の暴露ネタを提供され、ネタの裏取りを進める。「考察系」では経営者の湾田によって考察系配信者が集められ、自殺した配信者・寺沢の死の真相を考察していく。「正義系」では痴漢逮捕の直後に線路に飛び込んだ正義系配信者「ミツルギサバキ」の自殺の動機を追う。異なる題材を存分に活かした物語ーーコンテンツは一気読み必至だ。
しかし読み進めるうち、恐ろしくもなってくる。なぜならどの短編も、配信の「終了」前後で区切られていた現実とコンテンツの境界線が、徐々に溶けていくのだから。配信終了後の現実までもがコンテンツとなっていくさまに、本当に配信は終了したのだろうか、そもそも配信が終了することはあるのだろうかと背筋が凍る。
現実をコンテンツとして配信するーーそれはときに、配信するつもりのなかった「現実」すらもコンテンツにしてしまう。本作が描くのはカメラを向ける配信者が跋扈することで、24時間365日コンテンツ化してしまった現実だ。そしてその現実を生きる私たちは、提供されたこの物語をはたして画面の向こうにある「遠く」のものとして受け取れるのだろうか? 次にカメラを向けられ、「コンテンツ」として消費されるのはあなたかもしれないーー背後を振りかえらずにはいられない名作が揃っている。
- この配信は終了しました
- 著者:青本雪平
- 発売日:2025年05月
- 発行所:双葉社
- 価格:1,870円(税込)
- ISBNコード:9784575248197
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『小説推理』(双葉社)2025年7月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載