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元新聞記者の著者だからこそ描けた、永田町のモンスターの姿とは|本城雅人『キングメーカー』

たった1人の新聞記者が、長年にわたり政局を動かし、総理大臣の選出にも干渉していた。元新聞記者の本城雅人が、マスコミの倫理と記者の矜持を問う。


本城雅人は、得意な題材を幾つか持っている。具体的にいうと、「野球」「競馬」「ミステリー」「新聞記者」だ。「小説推理」に好評連載され、このたび単行本になった『キングメーカー』は、新聞記者を主人公にした作品である。元新聞記者である作者が、熟知した世界を舞台に、いかなる物語を創り上げたのか。本を開く前から期待が高まる。

日西新聞政治部に、木澤行成という記者がいた。69歳で定年を過ぎているが、上席編集委員として年契約で働いている。いままでに何度もスクープを飛ばしており、日西新聞は彼に頼り切りなのだ。しかし木澤は、記者の立場を超えて、長年にわたり政局を動かしたり、総理の選出さえ何度もコントロールしている。木澤の存在に危機感を覚える日西新聞の上層部は、やっと彼を排除することを決めた。

週刊誌記者を経て、日西新聞に入社した国枝裕子は、服部編集局長から木澤と一緒に行動するようにいわれる。木澤に振り回されながら、現政権の大物政治家たちと会う裕子。また、日西新聞では最年少総理官邸キャップである廣瀬浩介も、何かと木澤に付きまとう。そんなとき荘口弘総理が入院したことで、政局が大きく揺れるのだった。

以上のような、裕子を主人公として進展するストーリーの途中に、何度も【実録 政治記者・木澤行成】というルポルタージュが挿入される。木澤の生い立ちから筆を起こし、一介の記者でありながら、総理の選出までコントロールするほどの力をいかに得たかが綴られている。最初はサクセス・ストーリーのように読めたが、しだいに不穏な文章が増えていく。このルポルタージュはいったい……。

そんな疑問と並行するように、裕子のパートにも意外な展開が待ち構えている。得意としているミステリーの手腕を、作者は遺憾なく発揮。詳しく書けないのがもどかしいが、そんな事実が隠されていたのかと驚いた。

さらに、政治家と政治状況の描き方も見逃せない。本書では1980~90年代にかけてと、2020年の政治家と政治状況が克明に描かれている。現実を踏まえたフィクションであるが、実にリアルなのだ。なるほど、政治はこうして動くのかと感心してしまった。

そのようなストーリーから、木澤の政治モンスターともいうべき肖像が浮かび上がる。一方で、新聞の倫理と、記者の矜持も鮮やかに表現されていた。この1冊は、まさに“社会の木鐸”なのだ。


キングメーカー
著者:本城雅人
発売日:2023年3月
発行所:双葉社
価格:1,980円(税込)
ISBN:9784575246131


双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・本城雅人さんのインタビューが公開されています。

著者・本城雅人さんのインタビュー記事はこちら

「小説推理」(双葉社)2023年5月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載