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モテまくりインフルエンサーが清楚系彼女に振り回されまくる!イケメンの敗北系ラブコメ『かわいいのは俺である』

『かわいいのは俺である』

何をどうやっても負けっぱなし

ここまで軽やかに引きずり回されたら、そりゃ相手のこと大好きになっちゃうよね!と思う。納得の敗北系ラブコメだ。次のコマを追っかけるのがめちゃくちゃ楽しい。

『かわいいのは俺である』の楽しさは、足腰のしっかりしたダンサーが予想外の動きをするのに似ている。予想外のことなのに不思議な安定感があるのだ。安心して「存分にブン回してくださーい」と見ていられる。

ブン回し、ブン回されるふたりはこちら。

『かわいいのは俺である』

黒髪の編み込みがかわいらしい“百合乃”を15分待たせて現れたのは、某イタリア系ファッションブランドのものと思しきキャップをさらりとかぶった“ユキ”。このキャップを実際に見たことがあるが、普通の人は額から頭頂部にかけてデカデカとプリントされたロゴの存在感に負けてしまいそうになる。でもユキは大丈夫。なぜならダンス系YouTuberだから。

『かわいいのは俺である』

とてもいい。チャンネル登録者数100万人超えの人気YouTuber(しかもユキはビジュ担当。ご覧の通りである)は、シャンデリアが謎にぶら下がって壁がギラギラしたお店で遊んでいてほしい。で、このハーレム的飲み会に百合乃も同席していたのだ。予想外! しかもユキとつながりたい子たちが集まった会のハズなのに、百合乃は自己紹介もせず早抜けしようとしている。これも予想外。

ユキはそんな予想外だらけの百合乃のことが気になって追いかけてみるも……?

『かわいいのは俺である』

予想外に速い。すぐに追いつくつもりが全然追いつけない。思えばこのときからユキは百合乃に負けっぱなしだった。

『かわいいのは俺である』

百合乃のとろーんと危うい目! 攻め攻め。そう、本作は強気そうなユキが愛らしい百合乃にイニシアチブを奪われ、ブンブン振り回されるラブコメだ。買い物でも、おしゃれなバーでも、そしてファミレスや真夜中のタクシーの中でも、ユキは全戦全敗している。

 

秒速でオトしてやろーじゃん

本作はユキがカッコつければつけるほど面白い。そしてユキは隙あらばカッコつけようとする。

『かわいいのは俺である』

ユキから恋バナを振ってみたら百合乃は「ユキさんみたいな男らしい人が好きです」なんてかわいいことを言ってくれる。そこですかさず「オレも今彼女いないんだけどさ」と切り出すも……?

『かわいいのは俺である』

秒速でオトすつもりが秒速でフラれている。人気インフルエンサーがファンを手玉にとろうとしているハズなのに、むしろユキの方がコロッコロに転がされている。これが毎話続く。

百合乃はヒット&アウェイが絶妙にうまい。

『かわいいのは俺である』

ユキがホテルに誘えばアッサリ承諾してみたり(そして誘った側のユキの方が動揺している。ここでも完全に負けだ)。

百合乃がユキに見せる態度はただの塩対応ではなさそう。ではユキのことをどう思っているのだろうか。

『かわいいのは俺である』

このやりとりからは、一粒の嘘も底意も感じない。百合乃は本当に感心したのだろうし、ユキは本当にうれしかったのだと思う。ふたりの気持ちがつながる瞬間は確かにあるのだ。

『かわいいのは俺である』

自他とも認めるモテまくり人気インフルエンサーなのに、百合乃からの既読無視(1週間)がこんなにつらいなんて。かわいい。まさにタイトル通り。そして、そんなユキのことを「かわいい」と思っているのは読者だけではない。本作は百合乃からユキへの思いが温かいラブコメでもある。百合乃の本心を知ると幸福な気持ちになる。なお、王道少女マンガならば100点満点であろうこんなページのあとにも百合乃はちゃんとかましてくれる。最高だ。

いろいろと様子がおかしいが、おかしいなりに順調にデートを重ねるふたり。そしてユキは百合乃にいつまでたっても勝てない。

『かわいいのは俺である』

意外性の嵐に訳がわからなくなってしまうのだ。

勝ち筋どころか全てを見失いそうなユキには、引き続きありとあらゆるデートで負けまくってほしい。個人的イチオシの神回はサイゼデートだ。お店に入る前からお会計時まで何もかもがかわいくて面白い。

(レビュアー:花森リド)

かわいいのは俺である 1
著者:八寿子
発売日:2025年05月
発行所:講談社
価格:792円(税込)
ISBNコード:9784065395271

※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年6月1日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。