『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる魔女が、犯した罪を償うために転生!?
その前に、グリム童話ではどんなお話だったかを簡単に説明すると……。
森に置き去りにされたヘンゼルとグレーテルは、お菓子の家を見つけますが、それは人喰い魔女が住む恐ろしい家でした。
ヘンゼルは犬小屋に閉じ込められ、グレーテルは食事の支度をさせられます。
あるとき魔女が「かまどの火加減を見な」と言うと、グレーテルは「どうやって見るの?」と尋ねます。
「こうやって見るんだよ」と魔女がかまどに首を突っ込んだその瞬間、グレーテルは魔女の背中を押して、かまどに閉じ込めてしまったのです。
その断末魔、『お菓子の家の魔女はやり直したい』のオランジェは、こう叫びます。
「神様、助けておくれよ……こんな最期あんまりだよおお!」。
すると神様が現れ、チャンスを与えられます。
「蘇ったら己の罪を自覚し償いなさい」と。
こうして転生したオランジェですが、かつて住んでいたお菓子の家(ヘクセンハウス)は、カフェの開店準備を進める男性の手に渡っていたのです。
その主の名は――ヘンゼル・ハインリヒ!!
赤い瞳のせいで、オランジェが魔女であることはすぐにバレてしまいますが、彼女にはある特技がありました。それは、お菓子作り!!
さすが、お菓子の家に住んでいただけある! あの家は魔法で作ったのではなく、魔女の手作りだったのか!? ――と妄想が止まりません(笑)。
そこへ、かつて「毒リンゴ」を注文した男がやってきます。
娘が人質として女王に囚われているので、毒リンゴを作ってほしいというのです。
……ん!? 毒リンゴは『白雪姫』では? しかも、白雪姫に毒リンゴを渡したのは継母である女王だったはず、いや私の記憶違いか!? ──と一瞬頭がバグります(笑)。
でも、それくらい毒リンゴを巡る裏話がよくできていて、「もしかしたら、そんな出来事があったかも~」と思えてくるのです。
自分のせいで人を不幸にしたのだと反省したオランジェは、特別な毒リンゴとお菓子を作り、見事に解決へと導きます。
こんなふうにグリム童話の登場人物が、次々とオランジェを訪ねて来るのですが、第2話に登場するのは、『眠れる森の美女』の元になったといわれる『いばら姫』の魔女。
王女の誕生を祝う宴に呼ばれなかったことを恨み「死の呪い」をかけた魔女が、オランジェの“生涯唯一の友”カーラとして登場。お城ごと100年の眠りについている間、カーラは何をやっていたのかが語られます。
物語の悪役が、どんなふうに過ごしていたのかなんて考えたこともなかったので、このエピソードは新鮮でした。
自分のせいでカーラに寂しい思いをさせたと気づいたオランジェは、その償いをするために動きます。
続く第3話は『赤ずきんちゃん』が、狼を狙うハンターとして登場。そして、オランジェが償いをする相手は狼です。
この2つの話に出てくるエピソードは、どちらもちょっぴり切ないです。
ヘンゼルとオランジェのテンポのいい掛け合いの中に、こうした切ない話が入ることで、より作品に深みが加わったのではないかと感じます。
ついついお話の面白さに目が行きがちですが、表に見えていることと、真実は必ずしも同じではない――そんな当たり前のことに改めて気づかされました。
そしてこの物語は、“やり直しは誰にでもできる”と言っているような気がします。
まさに神様の言葉、「己の罪を自覚し、償いなさい」を笑いと優しさで見せてくれるのです。
次はどんなグリム童話の裏側が描かれるのか。
そして、ヘンゼルとオランジェの距離がどう変化していくのか、続きを楽しみにしたいです。
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(レビュアー:黒田順子)
- お菓子の家の魔女はやり直したい 1
- 著者:瀬田ハルヒ
- 発売日:2025年04月
- 発行所:講談社
- 価格:792円(税込)
- ISBNコード:9784065391297
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年5月27日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。