淡路島に集結した、お馴染みのメンバーが、悪党相手に大暴れ。柴田哲孝の人気シリーズ第五弾は、キャラクターを錯綜させながら、どこまでも爆走する。
2014年の『デッドエンド』から始まる、柴田哲孝の人気シリーズは、きわめてユニークな作品だ。なにしろシリーズ作品でありながら、一作ごとに主人公が入れ替わるのである。そして第5弾となる本書で、大きな節目を迎えた。オールスター・キャストといいたくなる、豪華な物語になっているのだ。
“北”の女工作員だったが、任務の失敗により祖国に帰ることができず、フリーの殺し屋になったグミジャ。シリーズを通じての敵役である。その彼女が淡路島で、ギャザー警備の社長を暗殺する場面から、本書の幕は上がる。なぜか素早すぎる警察の動きにより、島から出られなくなったグミジャは潜伏を余儀なくされた。しかもギャザー警備は元暴力団であり、今も裏の顔を持っている。だからだろうか、社長を殺したグミジャの命を狙うのだった。
そんな状況の淡路島にやってきたのが、天才女子大生の笠原萌子だ。大手人材派遣会社『キマイラ』の会社説明会のため淡路島に招かれた友人の南條康介と連絡が取れなくなり、行方を捜すために来島したのである。だが、白いバイクに乗っていたため、グミジャと勘違いされ狙われた萌子。グミジャに救われ行動を共にすることになる。かつてグミジャが父親の武大と敵対したことを知っている萌子だが、悪い人とは思えない。そしてグミジャと共に、絶体絶命の危機に陥ったとき、ギャザー警備と深い因縁を持つ“イザナギ”という謎の男に助けられるのだった。
まず、グミジャと萌子が手を組むという展開に驚いた。そこに現れた“イザナギ”も加わり、3人で暮らすうちに、萌子は自ら戦う力を育てていく。頭脳派だった彼女の成長やグミジャとの絆が、本書のひとつの読みどころだ。
さらに、殺しに使われた銃の情報から、グミジャの存在を確信した警視庁公安課“サクラ”の、田臥健吾・室井智・矢野アサルのトリオも淡路島に飛ぶ。娘を心配する武大と、康介の父親の茲海もバイクで来島。お馴染みのメンバーが、島のあちこちで、ド派手なアクションを繰り広げるのだ。望月三起也の漫画『ワイルド7』を想起させるバイク・アクションもあり、大喜びしてしまった。また、日本神話まで利用した、真の敵の狙いも興味深い。アクション小説好きは必読の快作なのである。
なお本シリーズは、本書で一段落とのこと。しばらく休憩したら、また新たな物語を紡いでほしい。そのとき、誰が主人公になるのか。今から楽しみだ。
- ブレイクスルー
- 著者:柴田哲孝
- 発売日:2025年04月
- 発行所:双葉社
- 価格:935円(税込)
- ISBNコード:9784575528374
『小説推理』(双葉社)2023年1月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
あわせて読みたい
・謎の殺し屋コンビが、法で裁かれない悪人に鉄槌を下す|柴田哲孝『殺し屋商会』