「本が売れない時代になった」と、よく耳にします。マンガも然り。しかし一方で、確かにヒット作は生まれ続けています。「おもしろければ売れる」と言うのは一理ありますが、無数に発売される本の中から「おもしろい!」を見つけ出すのは、案外むずかしいものです。
おもしろい本をどう見つけるか、それを担うのが“PR”という仕事です。
ベストセラーの陰にこの人あり
黒田剛さんは数々のベストセラーを支えた書籍PRのプロで、多くの出版社から信頼され、引っ張りだこだそうです。いったいどんな営業術を持っているのか、どんな法則でヒットを生み出しているのか――。
そんな黒田さんの仕事術をまとめた著書『非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方』が、2025年4月10日に発売されました。
タイトル通り、「非効率では!!」と思うことが、実は“人の心を動かす”ためにはとても理にかなっていることが見えてきます。
効率が正義とされる今、あえて時間と手間をかけるという選択。その意味を知ると、自分の働き方や人との向き合い方まで、少し見直してみたくなる1冊です。
じっくり、ていねいに、向き合う営業
黒田さんは、効率を重視してリリースを一斉配信したり、テンプレートの企画書を量産したりといった方法は取りません。むしろ、本の魅力を伝える方法をじっくりと考えるのです。
相手がどんなことに関心を持ち、どんな情報を求めているのか――その人の目線に立ち、必要とされるタイミングにぴたりと寄り添った“提案”を届ける。それが黒田さん流のPRスタイルです。
スピードよりも、相手の心に残ることを優先する。その姿勢こそが、「非効率」の本当の意味なのだと感じさせられます。
説明よりも「ストーリー」
私が心に残ったのが、この言葉です。
いかに本の内容を説明せずに、「その本、読んでみたい!」』と思わせるか。
情報を並べるのではなく、相手の心を動かす「ストーリー」をつくることが大切――この考えにはハッとさせられました。
というのも、私自身、新卒時代は営業職でした。毎日必死に電話をかけ、やっと取れたアポイントで一生懸命に商品の説明をして……それでも成果が出ない日々。でも振り返ってみると、うまくいったときって、相手が「この商品があれば困りごとが解決できる」とイメージできたときだったんです。
あれが“ストーリー”が届いていた瞬間だったんですね。
「非効率」と「効率化」のバランスが大事
仕事は一人では成り立たないということを改めて感じた本作。人と人のつながりがあってこそ、物事は動き出す。そのつながりを深めるために大切なのは、「非効率」に動くこと。
もちろん、非効率をはき違えてはいけません。黒田さんは、心を込めて向き合う時間を最大限確保するために、それ以外の業務を徹底的に合理化しています。そのバランスが黒田流の極意なのだと感じました。
「届けたい気持ち」の背中を押す1冊
私は書籍ライターであり、PRの端っこを担っている身です。誰かに「この作品、おもしろいよ!」と届けたくて始めたこの仕事。そんな思いを、黒田さんの本を通して肯定されたような気がしました。
本気で届けたいと願うなら、相手の心に寄り添う非効率さも、時には必要な選択。この本がくれるのは、そんな温かな勇気です。
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(レビュアー:Micha)
- 非効率思考 相手の心を動かす最高の伝え方
- 著者:黒田剛
- 発売日:2025年04月
- 発行所:講談社
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784065388891
※本記事は、講談社|今日のおすすめ(書籍)に2025年5月16日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。