幸せの絶頂から、捕らわれの身となった新婚夫婦。
無理やり行われるアンサーゲームによって、ふたりの本質があぶり出される。
このサスペンスは強烈だ。
ホラー・ミステリー・青春小説・時代小説など、多彩なエンターテインメント作品を上梓しながら、五十嵐貴久は平成を駆け抜けた。その勢いは令和になっても続きそうだ。令和初の単行本となった本書の魅力が、新たな時代の活躍を予感させてくれるのである。
日本有数の総合商社「永和商事」のエリート社員・樋口毅と、後輩社員の田崎里美は、大勢の人々に祝福されて結婚式を挙げた。しかしその夜、不自然な眠りに陥る。目が覚めるとふたりは、別々の正方形に近い箱の中に囚われていた。どうやら貨物用コンテナらしい。
不可解な状況に困惑するふたりだが、部屋にあるモニターに映ったピエロから、予想外の話をされる。アンサーゲームというゲームを強いられたのだ。10の簡単な質問をして、互いの答えが一致すればOK。間違いは3度までしか許されず、しかも罰があるという。また3度まで、相談することができる。そしてゲームをクリアすると、総額2,000万円を貰えるというのだ。訳の分からないまま始まったゲームは、やがてふたりの本質を暴き出していく。
本書の発想の原点は、世界的にヒットしたカナダ映画『CUBE』であろう。それは「永和商事」の持つ検索エンジンの名前が“CUBE”であることからも察せられる。しかし不条理な状況に置かれた男女が部屋から脱出しようとするという大枠が重なり合うだけで、ストーリーは作者の独創に満ちている。
特に凄いのが、物語の肝であるアンサーゲームだ。ピエロの出題する質問は、極めて簡単。だが、毅と里美の人間性を問いただすのだ。たとえば『わたしは浮気をしたことがある』という質問。ふたりを交互に描きながら、彼らの抱える疑惑や懊悩が、容赦なく掘り下げられていく。そうした質問が積み重なることで、ベストカップルと自分たちでも思っていたふたりの、性格や考え方の違いが露呈してくるのである。
さらにストーリーが進むと、アンサーゲームを仕掛けた者の正体や、その目的に対する興味が膨れ上がってくる。ちょっとした情報を小出しにして、読者を惹きつける作者のテクニックがお見事。どんどん不穏な空気が強まっていく展開から、目が離せないのだ。
その他にも、部屋から脱出しようとする毅の奮闘など、読みどころは多い。だから本書についてのファイナルアンサーは、とにかく面白いのである。
アンサーゲーム
著者:五十嵐貴久
発売日:2022年12月
発行所:双葉社
価格:792円(税込)
ISBN:9784575526202
本書評は、2022年12月15日(木)に『アンサーゲーム』文庫版が発売されたことにあたり「小説推理」(双葉社)2019年7月号より転載したものです。