あんたみたいないい素材がずっとほしかった
誰かにていねいに大切に扱ってもらうと、それだけで肌の血色はよくなるし、表情もやわらかくなります。そして美容やファッションの力で自分がガラッと変わると「魔法だ……!」って感動する。もうどんどん魔法をかけて!ってやめられなくなる。
しかもそんな美容の魔法は、意外とちょっとしたことだったりするんです。ブローの方法ひとつで髪のふんわり感をコントロールできたり。
そうそう、こんなに変わるんだよって教えてもらえたら、毎日すごく楽しいよね。
『東千石さんのメイクアップドール』は、美容学生の“東千石(ひがしせんごく)さん”の手によってどんどんかわいくなっていく女子大生・“玲(あきら)”の物語。玲は東千石さんのメイクモデルです。
東千石さんは玲を「いい素材」と呼び、それはそれは丁寧にメイクを施していきます。
東千石さん近いよ! そう、東千石さんはいつも玲の肌に触れて、至近距離にいて、玲の魅力を引き出してくれる人。これは好きになっちゃうよ、仕方ない。
「オカン」なわたしが避けてきたこと
玲は背が高くて義理人情に厚い人です。
子どもの頃から面倒見がよくて、ついたあだ名は「オカン」。
「かわいい」や「おしゃれ」は自分とは関係がないもの、そう思って生きてきたけれど、いろいろあってパーティーへ行くことに。で、偶然知り合った美容学生の東千石さん(超おしゃれ)に「私におしゃれを教えてください」と直談判! 行動力があるよね。
でも長年しみついた「わたしに“かわいい”は無縁」な気持ちはなかなか消えなくて……?
玲の後ろ向きな気持ちは、東千石さんの何かを刺激したようです。この本気の顔!
本作はヘアメイクの工程をふむふむ読むのも楽しいんですよ。抜け感ね、参考になる~。そして完成した玲の姿は!
美しい。でもまだ完成じゃありません。パーティーに行くなら、どんな装いがいい?
東千国さんが玲のために選んだのはフリルのついたセクシーなドレス。でも、玲はそんなドレスを着るのが怖くて……。
この「こんな格好したら笑われちゃうよなあ」って怖くなる気持ちはわかるし泣きたくなる。でも東千石さんの強い言葉が玲の呪いをちょっとずつ解いていきます。
きれい。このあとさらに東千石さんの「魔法」が待ってます! 絶対読んでね。すごくドキドキしました。(そしてここでも東千石さんによるおしゃれ解説が私の胸に響くよ。フリルの位置と大きさね、覚えておきます)
この大変身のあと、玲は東千石さんのヘアメイクの練習モデルを引き受けることに。ちなみに、この展開も玲の義理と人情とウッカリによる産物です。
オカンに見えたこと一度もないんだけど
パーティーが終わって、メイクを落としてドレスを脱いだ玲は、いつもの自分に戻ったのでしょうか? いいえ。「わたしなんて」と「わたしは変わりたい」との間でたくさん揺れ始めます。
そんな玲を外見サイドから変えていく東千石さん。だって玲は東千石さんのメイクアップドールですからね。いろんなメイクにチャレンジしたいし、メイクに似合うファッションも考えたくなっちゃう。
ずっとジャージが定番だったけれど、他にも着てみたい服はあるんじゃない? 東千石さん頼もしすぎるよ。夢のようだ。私もやってほしい。
ナチュラルなメイクを施す前にむくみをとるマッサージ。これもいいな……。
でもそんな玲を見て、昔からの知り合いはこんな心ないことを言います。
キャラってなんだよ。玲はかわいいワンピースに憧れていたし、大学生になってからもかわいい小物をバッグに忍ばせていたのに。もう邪魔しないで?
って、ぷりぷり私が怒っていたら、東千石さんがまたもや呪いを解いてくれます。
玲はいい素材で、義理と人情に厚くて、力持ちで背が高くて、すごくかわいい。ぜんぶ両立するはずなんです。だって東千石さんがいて、玲が「変わりたい」って思っているから。あと冒頭でも書きましたが二人の距離がとても近い。これはドキドキするし好きになる……。
ハイ。こんなに大切にやさしく扱われたらかわいくなっちゃうよ。ところで東千石さんのメイクの練習はいつまで続くんでしょう……? できればずっとがいいです!
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(レビュアー:花森リド)
※本記事は、講談社コミックプラスに2023年3月12日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。