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老兵(ジジイ)は、強い――大戦後の荒廃した町で、凄腕の老人が拳ひとつで悪を一掃!『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

 

凄腕の老人が生物兵器と対峙する本格バトルアクション漫画

度重なる大規模な戦争を経て、人類は「生物工学の力で人間を兵器と化す」という、恐ろしい科学技術を生み出していた。

舞台は戦争が終わり、十年が経過した某国(おそらく日本)の都市部。
大戦後の荒廃した町で、ボランティアのような形で粛々と清掃に勤しむ老人がいた。
彼の名は肋夜宗次(あばらやそうじ)。
平和が訪れた世の中で、元軍人の彼は人々から「用済み」「ゴミ同然」という扱いを受けながら、淡々とゴミを拾っていた。

そんなある日、国の中枢を司る要人の子息が通う保育園が入っているビルを、テロリストが襲撃。子どもたちを人質に取り、保護者である要人の呼び出しを要求する。
事態の鎮圧に向けて、光学迷彩で身を隠して戦う特殊部隊が公安から送り込まれるが、テロリストのボスに瞬殺されて全滅。

テロリストのボスは、大戦時に生物工学の被験者として人知を超えた力を身に着けた元兵士だった。公安は彼らを粛清すべく、現場にある男を送り込む。

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』
黒鉄の宗次。街中でゴミ扱いをされながらゴミ拾いをしていた、あの老人だ。
彼こそは戦時中の“生ける伝説”。幾度の世界大戦にて生身にして実験体と闘い続け、もっとも多くの実験体を葬り去ってきた伝説の兵士であった。

宗次はたった一人で、しかも徒手空拳でテロリストの集団を瞬殺。人ならざる異形の姿と化したボスもあっという間に粛清し、要人の子息を救い出すことに成功する。

テロリストたちの目的は、自分たち実験体が「用済み」扱いされる平和な世の中をひっくり返し、戦乱の世をふたたび作り出すことだった。彼らの動きは単発ではなく、どうやら国家が率いる軍隊そのものが、裏で糸を引いているようだ。

 

数多くの「名作SFバトル漫画」の要素が詰め込まれた最新作

本作をひと言でいうなら「凄腕の老人が徒手空拳で人ならざる異形と対峙する」本格SFバトルアクション漫画。科学の力で人知を超えた戦闘力を身に着けて「特殊兵器」と化した兵士を、生身の人間、しかも老人が研ぎ澄まされた身体能力・体術のみで駆逐する。武器らしい武器は、すり減らした鋼鉄のサックただ一つ。

最初の敵は、カメレオンの能力を身に付けた生物兵器(しかもとんでもない数の極太の触手を操る化け物)。次の敵は素早い身のこなしで謎の毒針を操る、イケ好かない長髪の実験体。

続いて、血液を凝固させて武器として使う特殊能力を持つ、宗次の元部下。彼はかつて宗次を裏切り、当時の宗次が率いる部隊員全員の命を奪った因縁の男だった。しかも宗次を倒すことに執念を燃やすこの男は、宗次に命を奪われる直前に脳味噌だけを頭から脱出させ、別の体に乗り換えて生き残る。もはやまぎれもない「化け物」になっていた。

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

『始末屋ソウジ』

現在はボランティアでゴミ拾いをする日常の傍らで、公安傘下の実験体対策組織「アルドクストス」第四支部の特別顧問を務める宗次。
宗次の元部下であり、「アルドクストス」第四支部の支部長にして、自らも大戦時に実験体の軍団から単身で都市を守り抜いた英雄・四方仙浄華(しほうせんじょうか)。
浄華の若き部下であり、常に真摯かつ素直で誇り高い女性軍人・皇九凛(すめらぎくりん)。

おそらくこの先、宗次とその仲間たちは、戦争を起こしたい国家の上層部、さらには軍全体が絡む巨大な陰謀をせん滅すべく、戦うことになっていくのだろう。

この作品を読んでパッと思い浮かんだのは、『うしおととら』『黒博物館』シリーズなどで知られる藤田和日郎の読み切り作品『瞬撃の虚空』だ。この作品では、柔術の達人である老人・サキサカケンジロウが、投薬や改造手術によって生み出された超人兵士「モーメント・アタッカー」と激闘を繰り広げていた。

また、テロリストを制圧した後、幼子に「ソウジさんって…いったい何者なの?」と聞かれて「ただのお節介な老人さ」と柔らかな笑顔で応えるシーンは、同じくSFバトル漫画『ARMS』(皆川亮二)にて生身のままで完全体ARMSを打ち破った“強すぎる忍者の末裔(まつえい)”・高槻巌の名ゼリフ「通りすがりのサラリーマンさ」を思い起こさせる。

シレっと冒頭の戦いで登場する「光学迷彩」は、アラフィフの私たち世代にとっては『攻殻機動隊』(士郎正宗)が切り開いた地平と言えるだろう。
さまざまな生物の能力を身に着けた「生物兵器」たちとの戦いの描写は『鋼の錬金術師』(荒川弘)の、エド&アルとキメラたちとの戦いが頭に浮かぶ。

これらのジャンルの流れを汲むSFバトル作品が好きな人たちならば、間違いなく楽しめるはずだ。

(レビュアー:奥津圭介)

始末屋ソウジ 1
著者:成田成哲 景山愁
発売日:2025年03月
発行所:講談社
価格:792円(税込)
ISBNコード:9784065387313

※本記事は、講談社|今日のおすすめ(コミック)に2025年4月13日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。