映画の最終オーディションは絶海の孤島。奇妙な台本や不穏な妨害を経て主役を手にするのは誰か? 映像化熱烈希望、「嵐の孤島」の新機軸!
よく目にする「映像化不可能」を謳うミステリ。確かに大仕掛けであればあるほど、映像化には向かないという傾向がある。だがそんな中、彩坂美月『そして少女は、孤島に消える』は、大きな仕掛けを潜ませているにもかかわらず、「これは映画で見たい」と思ってしまった。驚く観客の顔を想像して、にやにやしてしまったくらいだ。
幼くして母と死に別れた井上立夏は伯母に引き取られたあと、児童劇団に入った。子役として出演したドラマが大ヒットし、一躍有名人に。しかしその子役の印象が強く、18歳になった今も役のイメージを拭えないでいる。
そこで一念発起し、鬼才と称される監督が撮る新作映画のオーディションに挑むことにした。最終審査まで残った立夏は、他の4人の候補者と一緒に審査会場である孤島を訪れる。かつて宿泊施設だったらしい建物に泊まり、3日かけて台本を演じるというのが審査の内容だ。
ところが説明を終えたスタッフは姿を消し、監督もモニター越しに挨拶しただけ。5人の少女に渡された台本に書かれていたのは、絶海の孤島で5人の少女が何者かに襲われ、1人ずつ死んでいくという話だった。
スタッフはどこにいるかもわからないまま、台本通りに演技をする5人だったが、なぜか不穏な出来事が相次ぐ。さらに島には嵐が迫っておりーー。
とまあ、これぞ「嵐の孤島」といった道具立てだ。個性の異なる5人の少女に、どこか奇妙な台本。その台本をなぞるかのような事件が起きたかと思えば、妨害工作としか思えないような出来事も起きる。嵐が近づく天候も相まって、すべての行間から「不穏」の二文字が滲み出るようなサスペンスだ。いやあ、ゾクゾクする!
映画のオーディションという設定がポイント。彼女たちは皆、役者なのだ。どこまでが演技で、どこからが本音なのかもわからない。終盤、台本に書かれたクライマックスの場面を演じるシーンは、まさにこの物語のクライマックスと言っていい。
そして、ある一文を読んだときーー思わず「えっ」と声が出た。立夏の生い立ちも、彼女が抱えている悩みも、すべてはここに帰結するのか。真相を知って読み返すと、初読の時とはまったく違った物語が浮かび上がるのだ。
極上のサスペンスであり、大満足のサプライズである。なぜこれを映画で観たいと思ったかも、最後まで読めばおわかりいただけるはずだ。
- そして少女は、孤島に消える
- 著者:彩坂美月
- 発売日:2025年01月
- 発行所:双葉社
- 価格:1,870円(税込)
- ISBNコード:9784575247930
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『そして少女は、孤島に消える』の試し読みが公開されています。
『そして少女は、孤島に消える』の試し読みはこちら
『小説推理』(双葉社)2025年3月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載