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現代人が2度目のタイムスリップで蔦重と再会! 大河ドラマ主人公、蔦重に聞いてもらいたい切なる願いとは?! |『蔦重の矜持』車浮代

蔦重の矜持

かつて江戸時代にタイムスリップして、蔦屋重三郎の世話になった武村竹男。今度は孫と共に、江戸に行く。『蔦重の教え』の続篇は、予測不能な物語だ。

車浮代の『蔦重の教え』は、面白い作品だった。主人公は55歳のサラリーマンの武村竹男。不運が重なり退職を迫られた彼は、ヤケになってお稲荷さんに立小便をしながら、「あーあ、やり直してぇなあ!」と叫んだ。そのバチが当たったのだろうか。天明五年の江戸にタイムスリップ。しかもなぜか若返り、20代半ばになっていた。地本問屋(出版社)の主の蔦重こと蔦屋重三郎に救われた竹男は、タケと呼ばれて、蔦重の下で働く。そして蔦重の教えを、吸収していくのだった。

というのが『蔦重の教え』の粗筋だ。本書は、それから20年の歳月を経た2034年。江戸から帰還した竹男はフランスに移住し、和食のビストロ・チェーンを経営し成功していた。娘とフランス人の間に生まれた孫も二人いる。そんな竹男が孫のジェラール(G=ジェイ)を連れて、日本に行った。目的は再び江戸にタイムスリップすること。予定とは違った形でタイムスリップは成功したが、着いたのは火事の最中の吉原だ。そこで旧知の喜多川歌麿を助けた竹男は、ようやく蔦重と再会するのであった。

前作では蔦重の教えによって成長した竹男だが、今ではもう世の中を熟知した老人である。蔦重を始めとする人々の人生を知る彼は、ある切実な願いがあって、再び江戸にやってきたのだ。しかし一方で、竹男の願いが歴史を改変する可能性もある。竹男・G・蔦重の三人で、タイムパラドックスやパラレルワールドについて話し合うシーンは、まるでSFのようだ。自分たちのタイムスリップそのものが、正史を創っているのではないかと竹男が思うのも、実にSF的である。

そして、かつての竹男の成長物語を担当するのは孫のGかと思ったら、その要素は薄い。なぜGを登場させたのかと疑問に思っていたら、終盤でとんでもない事実が明らかになる。まさかそんな話になるなんてと絶句。作者の発想は自由自在である。

さらに歌麿たちの創作への想いが明らかになるなど、歴史小説好きを唸らせるエピソードも多い。江戸時代の様々な事に対する説明も簡潔にして明快。大河ドラマ『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』鑑賞の副読本にしたいほどだ。

しかも蔦重の教えは、本書でも健在。「理屈にあぐらをかいて、学ぶ気がない奴は叱らねえよ」などの箴言が、次々に飛び出すのだ。面白くって為になる、痛快エンターテインメントなのである。

蔦重の矜持
著者:車浮代
発売日:2025年01月
発行所:双葉社
価格:1,760円(税込)
ISBNコード:9784575247893

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『蔦重の矜持』の試し読みが公開されています。

『蔦重の矜持』の試し読みはこちら

『小説推理』(双葉社)2025年3月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載

 

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