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幼馴染を密かに守るコワモテ男子!学園ラブコメ×バイオレンス・アクション『赤羽骨子のボディガード』

学園ラブコメ×バイオレンス・アクション――なんとも甘美な組み合わせだが、実践するのはなかなか難しい。それを正面きって見事にやってのけているのが、丹月正光の快作『赤羽骨子のボディガード』だ。

ストーリーはごくシンプル……に見えて、ちょっと凝っている。主人公の威吹荒邦(いぶきあらくに)は高校3年生。コワモテゆえに周囲から不良扱いされているが、実はひそかに同じクラスの幼馴染み・赤羽骨子(あかばねほねこ)のボディガードをつとめている。骨子はカタギの両親とともに暮らすれっきとした一般人だが、実の父親はヤクザの親分。跡目争いのいざこざで命が狙われ始めた骨子を守るため、とある縁から荒邦に白羽の矢が立てられたのだ。しかし、骨子自身はその血筋もいざこざも、荒邦がボディガードであることも知らない。昔から骨子に想いを寄せる荒邦は、彼女に気付かれないよう、襲い来る刺客を次々と薙(な)ぎ倒していく。

もうこれだけでストーリーは成立しそうだが、さらに一風変わっているのは、ボディガードが荒邦だけではないこと。なんと彼らの在籍する3年4組のクラスメイト全員が骨子のボディガードなのだ。この思いきった設定が、冒頭に述べた学園ドラマとド派手なアクションの融合を、遠慮なく盛大に展開させることに成功している。すこぶる名案というほかない。

荒邦と骨子を除く3年4組の生徒22名は、それぞれが格闘・剣術・変装・盗聴といった特技に秀でた「その道のプロ」であり、卓抜したチームワークと抜群の殺傷スキルで刺客を血祭りにあげていく。それだけ有能な護衛がいるなら、カタギのはしくれである荒邦は必要ないのでは? と思わせて、しっかりエモい仕掛けが施されているところも気がきいている。

まず第1巻を読んで感服するのは、セットアップの巧みさだ。荒唐無稽なドタバタ恋愛コメディとして気持ちよく滑り出す導入部も見事だが、「クラスメイト全員ボディガード」という大仕掛けを第1話のクライマックスに用意し、さらにラブコメになくてはならない三角関係シチュエーションも第3話で早々に作り出し、今後の展開における豊かな膨らみと遊びを期待させる。同級生だけでも各話一人ずつ絡んでいけるほどキャラが立っているので、エピソード作りには事欠かないし、跡目争いをめぐる抗争劇にも次々と強烈な新キャラが出現しそうだ(実際、のちの体育祭編や修学旅行編はさらに賑やかな展開になっている)。

全体にテンポも快調で、もうちょっと勿体ぶってもよくない? と余計な心配をしてしまうくらい、惜しげもなく「引き」と「趣向」を投入してくる構成が、いっそ清々しい。この大盤振る舞いなパワーが本作の身上であり、それは極めてハイテンションな作画についても言える。

何しろ絵がべらぼうにうまい。パワフルかつ流麗で迷いがなく、なおかつ表情豊かな描線には、漫画の醍醐味がみなぎっている。ダイナミックでスピード感に満ちたアクションシーン、堅苦しいリアリズムに捉われない柔軟で自由闊達な動きのフォルムも気持ちいい。

3年4組の面々が活躍する集団戦シーンになると、凄味はさらに増す。20余名が入り乱れるアクションモブシーンなんて、そりゃ描いたら面白いに決まっているけれど、さすがに手間暇を考えると怯みそうなものだ。しかし、この作品に散りばめられたキメ画の数々からは「絵を描く快感」が有無を言わさず伝わってくる。まるでアクション映画の大好きなバトルシーンを繰り返し観てしまうように、1冊最後まで読み終わっても、何度もそのページに戻らずにいられない。

限りなく荒唐無稽かつ自由奔放な描写でぐいぐい引っ張る作品だが、それだけだと本筋自体の影が薄くなりそうな恐れもある。しかし本作は、荒邦と骨子のもどかしくも純真なラブストーリーという芯=まさに骨子(こっし)を外さない。ヒロイン・骨子のキャラクターにも寄り添い、決して添え物やマクガフィンにしない姿勢には好感が持てる。そして、骨子にベタ惚れなことを周囲に(だけ)は衒いなく言いきる荒邦のキャラクターが、今後どんな甘酸っぱい展開をもたらすのかも見ものである。

本作は一見殺伐とした世界観でありながら、登場人物の大半が「赤羽骨子を守ること」という使命のもとに一致団結する、おそろしくピュアで献身的な熱血学園ドラマでもある。同時に、主人公たちがほかの登場人物と人間関係を築いていくプロセスも丁寧に描かれ、そのドラマもまた熱い。続巻に登場する、ボディガード軍団の司令塔である染島澄彦(そめじますみひこ)と荒邦の荒っぽい衝突と和解、骨子と常に行動を共にする友人・棘屋寧(とげやねい)の屈折した思いにスポットを当てたくだりなども感動的だ。

近年、いわゆる「優しい世界」のなかで育まれるコミュニケーションドラマが読者の人気を集めているが、『赤羽骨子のボディガード』はそんな等身大の青春群像劇としての魅力まで兼ね備えた、最前線の活劇漫画なのだ。

(レビュアー:岡本敦史)


※本記事は、講談社コミックプラスに2023年2月19日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。