豊臣秀吉が逝き、徳川家康が動き出す。関ヶ原の戦いへ向かう時代の流れの中で、植田茂兵衛が奔走する。大人気シリーズ、最大のクライマックスは眼前だ。
来た。遂に来た。「三河雑兵心得」シリーズのファンならば、本書のタイトルを見ただけで、深い感慨を抱くだろう。なにしろ『関ヶ原仁義』である。徳川家康が天下人になった関ヶ原の戦いが、ついに始まるのだ。……と思ったら、上巻の本書で扱っているのは、豊臣秀吉の逝去から、関ヶ原の戦いに至るまでの流れと、その中で躍動する主人公の姿であった。
三河の農民から身を起こし、今や徳川家の鉄砲百人組頭まで出世した植田茂兵衛。一人娘の綾乃が、知行地千八百石の大岡家の次男坊・弥左右衛門を入り婿に迎えたが、江戸での祝言に参加できなかった。というのも、秀吉がいつ亡くなってもおかしくなく、家康が伏見から動けない。主君の側近と護衛を兼ねる茂兵衛も同様だったのである。
しかし秀吉の逝去により、天下を狙う家康が積極的に動き出す。御掟を破り、勝手に他家との婚儀を進めたのだ。福島正則の甥と家康の姪の婚礼の下馴らしのため、茂兵衛は正則に会いに行く。ちょっと正則が苦手な茂兵衛だが、家康の命となれば、そんなことはいってられない。この件を皮切りに、武断派の七将が石田三成を襲撃した有名な騒動や、大坂城で行われた豊臣秀頼と家康の対面など、茂兵衛は戦国の重要な局面にかかわっていく。
ついに茂兵衛に天下を獲ることを明言した家康は、腹黒全開で策を巡らす。使い勝手のいい茂兵衛が、いつものように走り回ることになる。家康を筆頭とする癖のある男たち相手に茂兵衛は、なんだかんだと上手くやっていく。それはきっと、彼が素直に人間を見ているからだろう。たとえば本書で茂兵衛は、典型的な“花嫁の父”状態で、ほとんど会ったことのない婿の弥左右衛門を嫌っていた。しかし実際に会って、行動を共にするうちに、人柄のよさを認めるのである。こういうエピソードから、主人公の魅力が伝わってくるのだ。
一方で終盤になると、意外な場所で戦闘が発生。家康や茂兵衛が窮地に陥る。手に汗握る大ピンチであった。まあ、それもあってか、久しぶりに加増。綾乃に子供も生まれて祖父になった。当時では老人といっていい年齢の茂兵衛が、下巻の関ヶ原の戦いで、いかなる活躍を見せてくれるのだろうか。そしてシリーズは次で完結するのか、それとも大坂の陣まで書くのか。どちらにしろ最後まで、付き合う覚悟はできている。だってこんなにも面白いシリーズなのだから。
- 関ケ原仁義 上
- 著者:井原忠政
- 発売日:2024年12月
- 発行所:双葉社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784575672206
『小説推理』(双葉社)2025年2月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
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