過去に戻って「やり直し」ができるという不思議な神社。あなたなら何をやり直す? 共感度MAXのタイムリープ連作短編集、最終話はハンカチ必須だ!
あの日に戻ってやり直したいーー。
そんな後悔のひとつやふたつは誰にだってあるだろう。では実際にその機会が与えられたら? 失敗を消してしまえば、すべてうまくいくのか。やり直したとき、人はそこに何を見るのか。これはタイムリープを通して、やり直しの機会を与えられた人々の物語である。
舞台は北鎌倉の一条神社。時の神様を祀る古い社だ。切り盛りするのはイケメンだけどぶっきらぼう&トラウマ持ちの神主と、美人なのに守銭奴の巫女の兄妹。社はおんぼろだけど、それに似合わないオシャレな休憩処で和菓子も楽しめる。少々わかりにくいところにあるが、不思議な猫が道案内してくれるので大丈夫。そして境内の竹林を抜けると、過去の特定の日にタイムリープできる。誰でもというわけではない。選定は神様が行い、実務(?)は兄妹が担うことになる。
いや待って、設定盛り過ぎでは? だが後に、この盛り過ぎに感謝することになる。コミカルな兄妹パートがバランサーとなって、五つのタイムリープの物語から読者もちゃんと「帰って」来られるのだ。それほどまでに個々のタイムリープが胸に迫るのである。
高校時代の告白の失敗を引きずる女性や、管理職の激務で太った男性が、それぞれ「告白しない」「出世を断る」という新しい未来を掴みに戻る。産後の鬱で余裕がなくなり、夫に放ってしまった暴言を取り消したい妻。友達との約束を果たせなかった小学生。時には都合よく過去を改竄していたり、自分に余裕がなくて周りを傷つけてしまっていたりする彼らに、心の共感度メーターが振り切れた。彼らは私だ。応援せずにはいられないじゃないか。
だが、過去を変えるとは、言ったことややったことをただ取り消すだけではない、ということが次第にわかってくる。タイムリープの主眼は、その時には気づかなかったことに気づくという点にあるのだ。後悔するようなことをなぜしてしまったのか。その後悔が何から生まれているのかを見つめ、どう活かすかまでが「やり直し」なのだ。
最終話は、小学生の娘を事故で亡くしてしまった夫婦が時を遡る。死は避けられないという大前提がある。だったら戻って何をする? 彼らの選択に涙が溢れるのを止められなかった。本書の白眉である。
にしても、やっぱり設定盛り過ぎだと思うのだが、これは続きを待てということかな?
- 時帰りの神様
- 著者:成田名璃子
- 発売日:2024年11月
- 発行所:双葉社
- 価格:858円(税込)
- ISBNコード:9784575527902
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『時帰りの神様』の試し読みと、著者・成田名璃子さんのインタビューが公開されています。
『時帰りの神様』の試し読みはこちら
著者・成田名璃子さんのインタビュー記事はこちら
『小説推理』(双葉社)2025年1月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載