悩みや不満を抱えている人々の前に、その犬は現れる。黒柴らしき中型犬“マジック”との出会いで、好転する人生が気持ちいい。人気シリーズ、待望の第4弾。
山本甲士の人気シリーズ「迷犬マジック」の第4弾が刊行された。黒柴らしいが、洋犬の血も入っているような、オスの中型犬。名前はマジック。あちこちをフラフラしては、悩みや不満を抱えている人々の前に現れ、なぜかその人生を好転させていく。本当にそんな力があるのか、それとも単なる偶然か。どちらなのかは謎だが、そんなことはどうでもいい。マジックと出会った人々の物語が、とにかく気持ちがいいのである。
本書には短篇4作が収録されている。原屋敷家に落ち着いていると思いきや、脱走癖は相変わらず。冒頭の「花見」では、60代半ばの夫婦のもとに現れる。夫の西渕淳は腕のいい革製品職人だが、元請けメーカーが海外に発注するようになり、ここ10数年は開店休業状態が続いている。パッチワークを趣味とする妻の香代とは、ささいなことでぶつかり合う。だが香代がマジックと出会い、面倒を見るようになって、二人の日常は変わる。赤い首輪に書かれた名前が分からなくなっていたことから、クロと名付けて、飼い主を捜そうとする香代。マジックを散歩に連れていって、世間が少し広くなる。さらに香代が公園のトランポリンが破損していることに気づき、そのことを淳に話す。小遣い稼ぎのつもりで破損を修理した淳だが、このことが切っかけになり新たな仕事を得るのだった。
以下、「花火」では、流行らない小さなスーパーの経営者。「月見」では、上司から不正を強いられる住宅リフォーム会社の契約社員。「初雪」では、「月見」の主人公に続いて会社を辞め、バイト生活をしている女性。それぞれ「あんころ」「カンベエ」「クロスケ」と名付けたマジックに導かれるように、明るい明日に向かっていく。
しかも話が進むにつれ、それぞれの物語の登場人物が、どんどん絡まっていく。「花見」では名前だけ出ていた小料理屋の「二歩にふ」が、人々の集まる幸せな場所になるのも楽しいのである。
そういえば登場人物のひとりが、「間違ったこと、曲がったことはしない。そういう当たり前の生き方をしていれば、誰かが見ていてくれて、声をかけてくれたり、手を差し伸べてくれたりするもんだよ」といっている。もちろん現実は、それほど甘くはないだろう。だが、マジックのいるところは、そのような世界になるのだ。まさにワンダーでワンダフルな物語。いつまでも続いてほしいシリーズなのである。
- 迷犬マジック 4
- 著者:山本甲士
- 発売日:2024年11月
- 発行所:双葉社
- 価格:836円(税込)
- ISBNコード:9784575528060
『小説推理』(双葉社)2025年1月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
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