歴史上の人物で、その関係性から、対になっているお馴染みの組み合わせというものがあります。たとえば源頼朝&義経の因縁の兄弟や、清少納言&紫式部や宮本武蔵&佐々木小次郎などのライバル、近藤勇&土方歳三という相棒のようなペアなど。日本史におけるスターのひとり、織田信長にもそういったペアがいます。共に時代を作った豊臣秀吉や徳川家康などはその代表格でしょう。そしてもうひとり、絶対に忘れてはいけない存在がいます。それは、信長が死するに至った本能寺の変の仕掛け人ともいえる、明智光秀です。
本作は、そんな信長と光秀が、とあるかたちで現代日本に降臨して繰り広げる、壮大(?)な歴史ラブコメディ。ただし、主役となるのは、高校生の男女ふたりです。
高校喧嘩番付1位、不良として名を馳せる明智隆之介(あけちりゅうのすけ)と、成績・容姿・性格も完璧なゆるふわ無双女子の織田麻里亜(おだまりあ)。同じクラスのふたりは、まさに正反対な立ち位置にいるわけですが、実は相思相愛でした。明智くんの告白を受け入れた織田ちゃん。でも、ウブなふたりは「好き」という気持ちを確認し合った後、どうしたらいいかわからず、戸惑いながらもキスをします。
しかし、その瞬間――
突然、前世の記憶がよみがえり、明智くんは明智光秀、織田ちゃんは織田信長の生まれ変わりであることが明らかになります。直前までラブラブだったふたりと、焼け落ちる本能寺の中で吠える信長の図というコントラストが、このシーンをよりドラマチックに演出。
442年前の記憶が呼び起され、ふたり(特に織田ちゃん)は豹変します。
織田ちゃんはもはや、現世に復活した信長に上書きされてしまったかのよう。一方の明智くんは自分の人格を保っていたのですが、「ハゲ」呼ばわりなどあまりに乱暴な織田ちゃんの振る舞いに、光秀の記憶に眠っていた、信長から何度も受けてきた酷い仕打ちへの怒りが爆発! 光秀の憎悪が織田ちゃんへと襲い掛かります。
そう、決してこの世に信長と光秀が復活したわけではないのです。あくまで現世の織田ちゃんと明智くんに、前世の記憶がよみがえっただけ。ふたりの人格は確かに存在しています。ただ、現世と前世の人格が同居することで、ふたりの関係性もぐらぐらと揺れ動く。そこが本作の見どころのひとつです。
超キュートな織田ちゃんにメロメロになった明智くんですが、あのあざとかわいい姿は幻だとばかりに、すぐさま鬼の信長様降臨。
それでも恋心が忘れられない明智くんは、やっぱり織田ちゃんが大好き。対して、信長としての記憶が甦った織田ちゃんのほうは信長人格がメインであり、明智くんの好意を利用して手玉に取りまくる。その結果、織田ちゃんと明智くんの間には明確な主従関係ができあがってしまいました。
ぬかりのない織田ちゃんは、クラスメイトの前で明智くんと交際していることを公表。明智の逃げ場をなくし、包囲網を完成させます。
完全に織田ちゃんの術中にハマり、八方塞がりな明智くん……なのですが、織田ちゃんの光秀包囲網は復讐のためではありません。むしろこれは、かつて裏切った部下を躾け直し、再び天下統一を目指すための布石。
天下にその名を轟かせた、日本有数の武将である信長と光秀、その生まれ変わりとなった織田ちゃんと明智くんのコンビが繰り広げる物語は、一筋縄ではいきません。
とは言いながら、織田ちゃんの暴走や妄言に適宜ツッコミを入れる明智くん、そして明智くんの恋心をイジってからかう織田ちゃんという、主従関係ではありながらも、なんだかんだ仲良しなふたりの関係性は、伝統的ラブコメ要素であることも確か。一途な明智くんの想いがどうか報われますようにと祈らずにはいられません。
世の中に広く伝わる織田信長というキャラクターや、明智光秀との因縁を上手に活用しながらオリジナルなストーリーを紡ぐ本作では、信長あるある、光秀あるあるも飛び出します。
「比叡山でしこたま寺焼いといて」という明智くんのセリフが良い例ですが、他にも織田ちゃんが明智くんに対して「三日天下」と揶揄する場面もあり、こうしたネタを知っているからこそより深く楽しめるという歴史モノならではの醍醐味も(知らなくてももちろん楽しめます)。
共通の敵には一致団結して対処するふたりの頼もしさには思わずワクワク。新たな前世武将キャラの登場など、まだまだ見どころたくさんの本作。織田ちゃんは天下統一という野望を実現することができるのか、そして天下を統べるそのとき、彼女の横には誰がいるのか……。令和の時代によみがえった恋の戦乱(?)、その行く末を見守りたいと思います。
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(レビュアー:ほしのん)
- 織田ちゃんと明智くん 1
- 著者:常盤ギヨ
- 発売日:2024年11月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065373637
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年12月21日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。