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【Vol.13:人間六度】編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人

人間六度さん

ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

集英社 編集者・伊礼春奈さんの注目作家は「人間六度」

人間六度 (にんげん・ろくど)
1995年愛知県名古屋市生まれ。日本大学藝術学部文芸学科卒業。2021年『スター・シェイカー』で第9回ハヤカワSFコンテスト《大賞》、『きみは雪を見ることができない』で第28回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》を受賞。『BAMBOO GIRL』『永遠のあなたと、死ぬ私の10の掟』『過去を喰らう(I am here)beyond you.』『トンデモワンダーズ(上・下)』など著書多数。

 

絶望の果ての光を描き出す、気鋭のSF作家

18歳で急性白血病を発症。執筆を心の支えに長い闘病生活を乗り越え、日本大学芸術学部に入学。2021年にハヤカワSFコンテスト《大賞》と電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》をW受賞した日本SF界の最注目作家・人間六度さんを“激推し”させてください。

ちなみにこのちょっと変わったペンネームは、闘病中、投薬治療の影響でしばしば発熱が続いたことに由来します。当時、「平熱(36度台)こそ健康の象徴」だと思っていたため、「人間六度」と命名したそうです。2024年春に大学を卒業され、現在は小説執筆のほか、大人気ボカロ曲のノベライズ、漫画原作などなど、ジャンルの枠を越えて幅広く活躍中です。

ところで皆さんはSFってお好きですか? 実は私、宇宙や未来が舞台になると途端に自分とは縁遠く感じられて、これまでずっと良い読者ではありませんでした。ですが、弊社の小説雑誌「小説すばる」に人間さんの新作が掲載されるたびに、そのドライブ感溢れる筆致とエモーショナルなストーリー展開に魅了され、ぜひ単行本化したい!と、気がついたら手を挙げていました。

私のような“非SF読者”にこそ、人間さんの最新作『推しはまだ生きているか』を強くおすすめしたく、この場をお借りして、激推しポイントをご紹介させてください。

今作は、推し活や婚活、SDGsや高齢化社会など、私たちが直面しているテーマをSF世界の中に貪欲に取り込んだ短編が収録されています。

表題作は、荒廃した東京で過酷なシェルター暮らしを送るあみぱんを主人公に、消息不明のアイドルを探すため危険な旅に出る“推し×ロードSF”。

婚活弱者の藍子が謎の生命体に寄生されてから婚活強者となり、港区在住のハイスペック男子とマッチングしていく様を描く婚活SF譚「君のための淘汰」。

人は老いれば必ず異形の怪物《老骸》と化す星・王球を舞台に、老骸を殲滅する使命を担う「福祉兵器」と、人生に絶望している少女の旅路を描く「福祉兵器309」。

収録作5編はいずれも、SFらしいSFでありながら、今と地続きの生きる苦しみや葛藤が鮮烈に描かれていきます。推しを推すことのエゴイスティックさ、相手から選ばれるために自分を偽り続ける苦しさ、望まない生を与えられたことへの憤りとやるせなさ……。

同時に、苦しみや葛藤で終始するのではなく、それぞれの絶望の向こうに灯るかすかな光も人間さんは描写していきます。生きていくのは辛く悲しくしんどいけれど、未来に手を伸ばすこと、誰かに向けて手を伸ばすことに、意味が無いなんてことはない。そんなささやかで確かな希望が読み手の心に届く、新感覚のSF短編集です。ぜひお手にとってみて下さい。

(集英社 文芸編集部 伊礼春奈)

推しはまだ生きているか
著者:人間六度
発売日:2024年10月
発行所:集英社
価格:2,200円(税込)
ISBNコード:9784087718713