ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
早川書房 編集者・今坂朋彦さんの注目作家は「睦月準也」
睦月準也(むつき・じゅんや)
1984年生まれ。東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2024年、『マリアを運べ』で第14回アガサ・クリスティー賞大賞を受賞し、同作で作家デビュー。
簡潔でドライな文体が癖になる、ハードボイルドの申し子によるデビュー作
入社2年目、これまで海外ミステリの編集を担当していた私にとって、国内作品の編集を担当するのは初めてのことです。その上、担当するのはアガサ・クリスティー賞大賞受賞作品。責任重大です。
最終候補に残った4作品のうち、どの作品が大賞を受賞しても私が担当になることは決まっていたので、全ての作品に目を通していました。そして、大賞が『マリアを運べ』に決まり、改めて読み返してみると、これが非常に面白い。今までのアガサ・クリスティー賞大賞受賞作とは一線を画する読み味です。
主人公の風子は17歳の女の子。無免許の運び屋です。
この設定だけでワクワクしませんか。さも当たり前かのように「17歳」「無免許」「運び屋」といっていますが、なかなかに稀有な設定ではないでしょうか。
その風子のもとに、東亜理科大医生物学研究所の研究員・志麻百合子が持ち出した開発中の医薬品と研究データを運んでほしいという依頼が持ち込まれます。一度走った道を映像として覚えられるという特殊な能力を持つ風子は、スバルのフォレスターに志麻を同乗させて長野県の諏訪を目指しますが……。この医薬品の正体、そして、志麻に隠された本当の目的とは一体?
打ち合わせでは、とても優しくて真面目な雰囲気の睦月さん。しかし『マリアを運べ』は、ともすればぶっきらぼうにも感じられてしまう程の、簡潔な文体にカッコいい台詞回しが特徴です。
それもそのはずで、睦月さんは、海外ミステリが大変お好きなのです。キレのいいドライな文章は海外小説の影響を感じさせます。
改稿作業中も、睦月さんご自身のなかで、よりしっくりとくる言い回しを探し続けていた姿が印象的でした。言葉の順序から文末表現に至るまで、随所にこだわりが詰め込まれています。到底ご紹介できる量ではないので、読んで感じていただきたいポイントです。
キャラクターも魅力的で、途中から同乗することになる殺し屋の青年・仁が特にカッコいい! 風子と仁、志麻の車内での掛け合いにもご注目ください。
一気読み間違いなしの、疾走感に溢れた物語です。新人賞受賞作ならではの勢いを、ぜひ味わってみてください。
(早川書房 書籍編集部 今坂朋彦)
- マリアを運べ
- 著者:睦月準也
- 発売日:2024年12月
- 発行所:早川書房
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784152103826