ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
小学館 編集者・室越美央さんの注目作家は「福田果歩」
福田果歩(ふくだ・かほ)
1990年生まれ、東京都出身。日本大学芸術学部映画学科脚本コース卒業。2025年1月公開の「366日」(主演/赤楚衛二、出演/上白石萌歌)の脚本を担当。同作のノベライズ小説も担当する。受賞歴に、2022年の第48回城戸賞準入賞などがある。1月16日(木)発売の『失うことは永遠にない』が初のオリジナル小説となる。
編集人生で1番といってもいいくらい大好きな作品
「はじめて原稿を読んだとき、冗談ではなく最初から最後まで、途切れることなくずっと泣いていた。編集人生で1番といってもいいくらい大好きな作品と出会いました」
帯に掲載した、担当編集(=私)のことばです。
あれは約2年前の、真冬のとても寒い日のこと。「小説を書きたいと言っている子がいる」と、弊社の映像を扱う部署の者が連絡をしてきて、会社近くのレストランでいっしょにカレーを食べることになりました。当時、東宝株式会社に勤めながら脚本を書かれていた福田さんは、ずっしりと重たい封筒を抱えてあらわれ、名刺を渡した私に「お忙しいと思いますが、お時間よろしければぜひ」と原稿の束を渡してくれたのでした。会社に戻り封筒を開けると、入っていた4篇の小説は、一束一束が黒い紐で綴じられていました。
のちに『失うことは永遠にない』として完成した1篇を読んだのは、それから数日後、家の近所のカフェで。すごい勢いでページをめくり、胸がいっぱいになって顔をあげたとき、騒がしかったはずの店内は静かになっていて、いつの間にか閉店の音楽が流れていました。
いったいなんだったのか? 通り過ぎていった様々な光景が、しばらく脳内で明滅していました。主人公が、大阪の河原で出会った同じ年の女の子の、舌足らずな大阪弁。穴ぐらのような家で、のびのびと楽しそうに暮らす(ように見える)5人の兄妹たちと、17歳の長男の寂しげな背中。夜中に歩く物騒な住宅街。気をはやらせる、救急車のサイレン。キラキラときらめいて揺蕩い、流れてゆく川面。
私も、この主人公と同じ気持ちになったことがある、と思いました。
小学生くらいの頃は、仲が良いともだちとなら、家族にだってなれるような気がしていました。それが、育ちや学力、親の価値観の違いで、だんだんと遠い存在になり、わかりあえない存在になり、そしてほとんどの人とは、一生会いもしない関係になってしまう。予感はありながら、祈るように一緒に過ごしていたあの頃の、名前のつかない感情がいくつもないまぜになったような複雑な感覚を、驚くほど鮮明に思い出させられ、感動してしまったのでした。
この感動を、もっと多くの方にも感じてもらいたい。そう感じて、家に帰りつくのももどかしく、道中で上司に熱いメールを打ち、福田さんにもお礼のご連絡をしたことを、昨日のことのように覚えています。
福田果歩さんは、1月10日全国公開の映画「366日」の脚本を担当され、小説版も書かれていますが、オリジナル小説は今作が初となります。
お会いするたび、フィクションのような日常のお話を聞かせてくれる福田さんの、今後の作品が楽しみでなりません。
ぜひ、まずは『失うことは永遠にない』で、新たな才能の顕現を感じていただければと思っております。
(小学館 出版局 文芸編集室 室越美央)
※『失うことは永遠にない』は1月16日(木)発売予定です
- 失うことは永遠にない
- 著者:福田果歩
- 発売日:2025年01月
- 発行所:小学館
- 価格:1,760円(税込)
- ISBNコード:9784093867436