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【Vol.9:菰野江名】編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人

菰野江名さん

ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

ポプラ社 編集者・鈴木実穂さんの注目作家は「菰野江名」

菰野江名(こもの・えな)
1993年生まれ。三重県出身、東京都在住。裁判所書記官として働きながら『つぎはぐ、さんかく』(応募時の「つぎはぐ△」を改題)で第11回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。

 

老姉妹の人生を辿り“幸せの形”を見つける

やわらかく優しく包み込んでくれるような筆致。だけど決して甘いだけではなく、ときおり胸を刺す鋭い心理描写。唯一無二の新人作家・菰野江名さんに、担当編集の私はすっかり魅了されています。
小さな惣菜屋を営む3きょうだいの物語『つぎはぐ、さんかく』で第11回ポプラ社小説新人賞を選考委員の満場一致で受賞し、デビューした菰野さん。待望の受賞後第一作は、前作とは一味ちがった壮大なスケールの作品となりました。

『さいわい住むと人のいう』は、老姉妹の人生を20年ごとに遡り辿る物語。
戦争孤児で、たった二人だけの家族である桐子と百合子。親戚をたらい回しにされて育った姉妹は、いつか自分たちの力で、二人だけで幸せになろうと誓います。しかし、ある選択を迫られることになり――。

彼女たちが生きてきたのは、今よりもっと女性が自由に生きることが難しい時代です。作中では戦後の日本女性にとってターニングポイントとなる法律がさりげなく描かれています。これは現役の裁判所書記官である菰野さんならではの目線だなと思いました。
厳しい時代性を真摯に伝えながらも、桐子と百合子の喜びや苦しみは現代を生きる私たちにも通じており、彼女たちの思いを自分ごとのように感じる瞬間が何度もありました。
姉妹がそれぞれに懸命に生きる日々がとても尊く、愛おしくて、胸がいっぱいになります。

タイトルはカール・ブッセの詩「山のあなた」からきています。本作を読み終わったとき、桐子と百合子の“さいわい”はどこにあるのか、そして、自分の“さいわい”はどこにあるのかをきっと見つけられると思います。

ちなみに菰野さんは料理の描写が本当に美味しそうなんです。私は猛烈にいなりずしが食べたくなりました(笑)。

ぜひ菰野江名さんにご注目いただき、滋味にあふれた物語をご堪能ください。

(ポプラ社 一般書文芸編集部 鈴木実穂)

さいわい住むと人のいう
著者:菰野江名
発売日:2024年09月
発行所:ポプラ社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784591182963