ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
双葉社 編集者・反町有里さんの注目作家は「白尾悠」
白尾悠(しらお・はるか)
神奈川県生まれ。アメリカの大学を卒業後、日本で外資系映画関連会社勤務などを経て、フリーのデジタルコンテンツ・プロデューサー、マーケター。2017年「アクロス・ザ・ユニバース」で「女による女のためのR-18文学賞」大賞と読者賞をW受賞。著書に、受賞作を含む『いまは、空しか見えない』や、『サード・キッチン』『ゴールドサンセット』がある。
辛い現実の中にも、希望や祈りを
2017年に第16回女による女のためのR-18文学賞大賞と読者賞をW受賞してデビューした白尾悠さん。その後も『いまは、空しか見えない』『サード・キッチン』『ゴールドサンセット』と、寡作ながら確かな実力が窺える小説を発表してきました。白尾さんはいずれの作品でも、社会の中で大きな声を発せられない人たちの声に耳を澄ましてその思いを掬い取り、物語として私たちの前に提示してくれています。読者は、登場人物と一緒に理不尽なことに悲しみ、時には憤りを覚えながら、ページを繰ることでしょう。
そんな白尾さんがインタビューでよくおっしゃっているのが、「自分の小説の中では、せめて希望や祈りを込めたい」ということです。だから白尾作品を読んだあとには自然と、前途に灯る光を信じられるのだと思います。
双葉社から刊行した『隣人のうたはうるさくて、ときどきやさしい』は第4作目となる単行本です。ココ・アパートメントというコミュニティ型マンションを舞台に、住人たちの交流を描いた連作短編集です。ここで暮らすのは、親と離れて生活するエリート男子高生、それぞれの理由でシングル家庭となった親子、結婚や出産に惑うカップル、発達特性のある子供を育てる夫婦、秘められた過去をもつ老女など。抱えている事情も世代も異なる彼らが「隣人」として生活してゆくなかで、新たな一歩を踏み出していきます。ここには、確かに「希望や祈り」があります。
本作は、白尾さんが初めて小説誌で連載した作品をまとめたものですが、初連載というプレッシャーを見事に乗り越えて全6章揃ってみれば、ただただ素晴らしいの一言に尽きます。書き下ろしのプロローグとエピローグなど、心憎いばかりの書きぶりです。未読の方には、ぜひお手にとって確かめていただきたいです。
(双葉社 文芸出版部 反町有里)
- 隣人のうたはうるさくて、ときどきやさしい
- 著者:白尾悠
- 発売日:2024年11月
- 発行所:双葉社
- 価格:1,870円(税込)
- ISBNコード:9784575247763