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【Vol.11:市街地ギャオ】編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人

市街地ギャオさん

ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。

ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

筑摩書房 編集者・砂金有美さんの注目作家は「市街地ギャオ」

市街地ギャオ(しがいち・ぎゃお)
1993年、大阪府生まれ。大阪府在住。会社員。2024年、「メメントラブドール」で第40回太宰治賞を受賞しデビュー。同作で第46回野間文芸新人賞候補。

 

鎧の下の驚くほどにまっすぐな声

2024年3月上旬、未だ見ぬ作者に電話をするのが怖かった。
「おめでとうございます、太宰治賞の最終候補に選ばれました」
頭の中で定型文を反芻する。番号を押す気はまだ起きない。さっさとお知らせすべきとはいえ、相手の名前が「市街地ギャオ」で投稿作はまさかの「メメントラブドール」。どういう人が飛び出すだろう。ポップなガワにくるんでいても、とびきり鋭利な観察眼の持ち主なのだと社内選考で確信していた。作中だったら「最高!」で済むハイスピードで抉るタイプの文体は、生身で受ければ半年寝込んでしまうと思う。あそこまで他者を精察できる書き手となれば声の調子で虫歯の数まで見抜かれそうだが、腹をくくって社用電話を耳元へ。手汗がにじむ。コールが響く。繋がらない。

“新宿区在住♡20代♡裏アカ男子の令和五年”的ハードストーリーを筑摩書房にぶん投げてきた市街地ギャオは何者なのか? 虚空に広がる妄想を裏切り、穏やかな声で折り返された現実世界の市街地さんは柔和な上に冷静だった。小説を書くのは2023年度限定と縛りを設け、純文系の新人賞へ出して出して出しまくっていた一年ですと微笑むけれど、ストイックすぎて怖くなるのは想定外にもほどがある。

メメントラブドール略称メメラブを読んだ時、実は不思議と予感が生まれた。この人がデビューをするなら今。去年でも来年でもなく、今。直感の根拠は同時代性の消費期限にあったわけでは決してない。この作品の、この瞬間の絶叫で歌う切実さだけを信じて賭けたい。だから今。

そう感じたのは私ばかりではなかったはずで、メメラブは第40回太宰治賞を受賞、第46回野間文芸新人賞の候補にもなった。帯文にもぜひ注目を。金原ひとみさんからの愛が、本作の鼓動をひたすら高めて下さっている。

(筑摩書房 第一編集室 砂金有美)

メメントラブドール
著者:市街地ギャオ
発売日:2024年10月
発行所:筑摩書房
価格:1,540円(税込)
ISBNコード:9784480805218