ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
河出書房新社 編集者・伊藤昂大さんの注目作家は「待川匙」
待川匙 (まちかわ・さじ)
1993年生まれ。徳島県生まれ、滋賀育ち。2024年、『光のそこで白くねむる』で第61回文藝賞を受賞。
端正な不穏から立ち上がる圧倒的世界観
第61回文藝賞を受賞された待川匙さん。
にこやかで、ユニークな視点と深い文学知識をお持ちの方で、お話ししていて楽しい話題が尽きません。
受賞作『光のそこで白くねむる』は、穏やかな待川さんのお人柄とは真逆の、全編に不穏さが滲む、静かな怖さのある物語。
「わたし」が10年ぶりに田舎へ墓参りに帰ると、死んだはずの幼馴染「キイちゃん」の声が語りかける。呪われた土地をめぐり、恐ろしい過去の出来事の数々が明らかになっていく……。
《キイちゃんが、にぃ、と笑った。目に見えない、体も顔もない、ただ意識に入りこんでくるだけの死んだキイちゃんの存在が、それでも、にぃ、と笑った気がした。(……)大人のわたしがうそをつくならば、子供のキイちゃんも、うそをつき返してやろうとたくらんでいるのだ。》(本文より)
選考会では、新人離れした文章技術の高さが評価され、松田いりのさん『ハイパーたいくつ』とともに満場一致の同時受賞。
ある選考委員の方は、「土下座してでも賞をもらってもらうべき」と激賞。
刊行記念イベントでは町屋良平さんが、「ここ数年で指折りの文章力」と大絶賛。
各紙誌の文芸時評でも高く評価を受けた話題作です。
中学生の頃から文芸誌の愛読者という待川さんの文学知識の深さは驚くべきもので、村田沙耶香さんとの受賞記念対談では、村田さんの作品がいつ、どの文芸誌に掲載されたかをそらんじるという一幕も。
海外文学にも詳しく、フォークナーの全集を読破。英語のほか、フランス語やスペイン語などの原書に触れることもあるそうです。
2025年の『文藝』掲載に向け次回作も準備中。
端正で不穏な物語の先に、圧倒的な奥深い世界観が広がる待川ワールドにご期待ください。
(河出書房新社 『文藝』編集部 伊藤昂大)
- 光のそこで白くねむる
- 著者:待川匙
- 発売日:2024年11月
- 発行所:河出書房新社
- 価格:1,650円(税込)
- ISBNコード:9784309039381