超能力女子高生の得意なこと
『罪と罰のスピカ』の各話を読むと、そのひとつ前を読んでいる過去の自分に「大変なことになるから、1ページも見逃すな」と教えてやりたくなる。それがずっと続く。
乙女座の一番星を名前に持つヒロイン“都麦澄光(つむぎすぴか)”には「超能力」がある。
そんな彼女の周りにはトラブルが常にある。たとえば澄光は学校でえげつなくいじめられていて(彼女は女子高生だ)、その件で担任教師の“羽鳥”から「もう心配しなくていいよ、僕がなんとかするよ」と声をかけてもらったとき、彼女はどうしたか。
指をからませ、手のひらと手のひらをぴったり重ね、ギュッ。このとき彼女は超能力を発揮している。
とろんと眠たそうな目と血色のいいほっぺた。この表情を本作の読者たちは折に触れて思い出すはずだ。そして羽鳥は思いっきり動揺する。むっちゃくちゃ図星だったのだ。澄光の言うとおり、彼は教師にま〜ったく興味がなく、なんとなく働いている。
つまり澄光の超能力とは「触れた人間が表には出していない、いろんなコト」を読み取る力らしい。
その読み取り速度たるや爆速である。
彼女の超能力はやがて羽鳥を翻弄しはじめる。
澄光がパパ活をしているらしいと学校内で密告があり、羽鳥がこっそり後をつけてみたらコレ。この瞬間に興味深いのは澄光の売春疑惑よりも、羽鳥の方だ。
なぜなら「教師なんてま〜ったく興味がない」はずなのに、羽鳥は澄光を気に掛けているからだ。意外といい先生なんじゃん? そう、意外と悪くないように見える。つまり羽鳥は手を抜いているようには見せない。彼は「教師なんてま~ったく興味がない」ことを、器用に器用に隠して、それっぽく生きている。
澄光におカネの入った封筒を渡しているおっさんだって「私はちょいちょい買春をしており、最近は女子高生のパンツをまさぐっております」と言いふらして歩いているわけではなさそうだし、きっと毎日しれっと仕事して納税もしているに違いない。だがフタを開ければ罪深い。
日の当たる場所を歩いていたつもりが、急に骨まで冷え切るようなことを浴びせられる。この温度差がやみつきになるマンガだ。
超能力女子高生、罪人に罰を与えまくる
ところで、羽鳥やパパ活おっさんから漏れ出る興味深さの1000倍興味深いのは澄光そのものだ。
澄光は常人が「気にする」ことを全く気にしない。たとえば強烈ないじめを受けても澄光は「慣れてるんでぇ」といってお構いなし。でも超能力で知ってしまったことには、とても執着し、行動する。
澄光はその超能力を使って罪深い人たちに「罰」を与え続けるのだ。フニャッとした女子高生かと思いきや実はゴリゴリの私刑サイキッカー。
そういう顔もするんだね!? で、彼女から罰を受ける対象は誰からも同情されなさそうで、むしろ因果応報だよね〜なんて言われそうな罪人ばかり。
ではなぜ彼女は罰を与えるのか。
いわゆる正義感や世のため人のためではない。
超能力で知ってしまったことは、澄光にとって“ボタンの掛け違い”なのだという。
誰も知らないボタンの掛け違いを絶対に直したい。直さないと何か気持ち悪い。いかにも少女らしい無邪気さと個人的なこだわりによって罰を与えまくっている。なので、澄光はあらゆる意味でお構いなしの女子高生といえる。
澄光の活躍っぷりを見ていると、世直しをしまくる時代劇のヒーローたちも実は「何か気持ち悪くてぇ」といった超私的な理由で悪人を成敗していたらどうしよう、なんて思ってしまう。ためしに澄光にギュッとされてほしい。
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(レビュアー:花森リド)
- 罪と罰のスピカ 1
- 著者:井龍一 瀬尾知汐
- 発売日:2024年11月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065373002
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年12月5日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。