『逆転美人』に続く驚愕の“仕掛け本ミステリー”が誕生した。なんてことをやってくれるのだ。藤崎翔の企みを見抜く読者が、存在するとは思えない!
藤崎翔の最新刊を手に取って、期待に胸が高鳴った。そう本書は、『逆転美人』『逆転泥棒』に続く「逆転」シリーズの第3弾である。しかも『逆転美人』と同趣向の、本自体に仕掛けのあるミステリーだ。今度はどんな仕掛けを見せてくれるのか、楽しみでならないのである。
作中の『ミワ子の独り言』は、雑誌「TVトピック」に連載されたエッセイとショートショートを、大幅に加筆修正して刊行された単行本だ。著者のミワ子は、テレビやライブシーンで幅広く活躍する女性芸人。なお、刊行後すぐに、ミワ子が行方不明になっていることが発覚した。
ということで本書には、ミワ子のエッセイとショートショートが並んでいる。もともと「TVトピック」はエッセイ連載を依頼したのだが、3回目でネタが尽きてしまい、以後、ショートショートも織り交ぜるようになった。やや自虐的なエッセイは、なかなか読ませる。さまざまなことが書かれているが、やがて人気俳優の早見怜司と結婚したことが明らかになる。
ショートショートの方も面白い。特に『貴方と最後の一問一答』は、ありふれたストーリーが、途中でとんでもない方向にジャンプし、最後に見事なオチが付く。このショートショート目当てに、本書を買ってもいいほどだ。
もちろん作品の最大の注目ポイントは、本を使った仕掛けである。『逆転美人』で驚いた人は、いろいろ考えながら読み進めることになるだろう。手がかりらしい文章があると、それを参考にしながら、試行錯誤してしまうのだ。私は最後のエッセイ『酒飲んで寝る前後にぜひ読んで!』の中の手がかりに気づき、ようやく仕掛けを理解できた。一応、解答篇となる『後日談』の前に分かったが、脳を酷使して疲れた。でも、心地よい疲れである。たまには、こんな読書もいいものだ。
と思ったら、『後日談』が単なる謎解きで終わらない。エッセイとショートショートに仕込まれていた膨大な伏線を指摘しながら、意外な真実を披露する。なぜこのような仕掛け本が生まれたのか、納得できる理由も提示(『逆転美人』が補強材料になっているのが愉快)される。しかも最後には、新たなサプライズが控えているではないか!
いったい作者は、どれほどの手間暇をかけて、本書を書き上げたのだろう。破天荒な仕掛け本のアイデアを、きちんとエンターテインメント作品に昇華した、根気と手腕に脱帽である。
- 逆転ミワ子
- 著者:藤崎翔
- 発売日:2024年10月
- 発行所:双葉社
- 価格:715円(税込)
- ISBNコード:9784575528008
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『逆転ミワ子』の試し読みが公開されています。
『逆転ミワ子』の試し読みはこちら
『小説推理』(双葉社)2024年12月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載
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