ほんのひきだしでは、この年末年始も8日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが「今、この作家を読んでほしい」とおすすめする、「編集者が激推し!2025年の注目作家はこの人」をお届けします。
ぜひ、気になる作家や作品を見つけて、書店に足を運んでみてください。
祥伝社 編集者・南部あさのさんの注目作家は「実石沙枝子」
実石沙枝子(じついし・さえこ)
1996年生まれ、静岡県出身。「別冊文藝春秋」新人発掘プロジェクト1期生。第11回ポプラ社小説新人賞奨励賞受賞。2022年、『きみが忘れた世界のおわり』(『リメンバー・マイ・エモーション』から改題)で第16回小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、デビュー。他の著書に『物語を継ぐ者は』『17歳のサリーダ』がある。
抱きしめたくなるような物語をぜひ
2024年7月に刊行された実石沙枝子さんの『物語を継ぐ者は』は、本と、本を愛する人のために書かれた作品。中学生の主人公・本村結芽が、大好きな作家の死により未完となってしまった物語の続きを、自分で書き継ぐという、ひと夏の挑戦を描きます。
……と書くと、王道の青春ものをイメージされるかもしれませんが、本作は、ちょっと、いや、かなりヘン(もちろん、いい意味で!)で、気が付くと私たち読者は、実石さんの描くとんでもなく不思議で危険で魅力的な冒険に連れて行かれることになります。
執筆に苦心する結芽が、ヒントを得るために物語の世界にワープ。ファンタジーと現実の間をなんども行き来し、飛んでは書いて、消しては飛んで。虚構の世界もまたかなりハードであることに、実石さんの物事をとらえる目の確かさに唸るのですが、とにかく、異なる世界が並行して進む物語を、「いつも通りに書きました!」と目をきらんとさせた実石さん、すごすぎます。
そして思い出しました。デビュー作『きみが忘れた世界のおわり』を読んだときの、二人称で若者の苦悩が語られる衝撃。『小説新潮』掲載の短編「メアリは帰りを待っている」での、主人を待つロボットメイドの切なくて心地よい余韻。この作家の頭の中はどうなっているのだろう、次はいったいどんな作品に出会えるのだろう。ひとり静かに興奮したのでした。
自分の頭だけでは決してたどり着けない、思いもよらない場所へと連れて行かれるのが読書の楽しみのひとつだとすれば、実石さんはまさにそんな冒険をさせてくれます。小説への愛と可能性にあふれた作品を、思わず抱きしめたくなってしまいます。
2024年12月刊行の『17歳のサリーダ』に続き、2025年も続々と刊行を控える実石さん。ぜひ、お出かけのかばんやナイトテーブル、あるいはあなたの胸にそっと抱いて、実石さんの本をお楽しみください!
(祥伝社 文芸出版部 南部あさの)
- 物語を継ぐ者は
- 著者:実石沙枝子
- 発売日:2024年07月
- 発行所:祥伝社
- 価格:1,870円(税込)
- ISBNコード:9784396636647
- 17歳のサリーダ
- 著者:実石沙枝子
- 発売日:2024年12月
- 発行所:講談社
- 価格:1,980円(税込)
- ISBNコード:9784065375556