役立つエロ情報満載の夫婦ラブコメ
「双方に理解と了解があれば、ベッドの上は無法地帯なんだよ〜」
居酒屋で酔っ払った友人が言ったこの格言を聞いたのは、もう30年も前。彼との思い出の大半はおぼろになったけれど、この言葉だけははっきりと覚えている。若き日の彼は、どんな無法者だったのだろう?
本作は、会社員の立花ヤマトと有能な税理士りんという、新婚ホヤホヤ夫婦の“エロい”ラブコメディだ。ヤマトの性欲は「普通」なのだが、妻のりんさんの性欲は「強」モード。ということで、毎晩こういう状況になる。
ふたりは愛し合っているし、生活も満たされている。でも……、アッチの方は人それぞれに弱・普通・強がありますから、こればっかりはしょうがない。そんなある日、りんさんがビデオカメラを買いに行きたいと言い始める。
りんさんを満足させられない若干の後ろめたさに、承知するヤマト。すると家電量販店で、りんさんはノリノリ! S●NYのハンディカムが王道。独自の空間光学、手ぶれ補正技術を搭載していて、ハイビジョン撮影時には5軸方向にレンズが駆動し……と、りんさん力説。速攻で自宅に戻り、実践あるのみ。しかし、
朝からハメ撮りに関する記事を読み込むりんさんを、勉強熱心の一言で片付けていいものか微妙だと思うのだが、彼女は何事にも真摯に向き合う性格なのだ。光量不足を補うレフ板も、ダンボールで自作。いざ正常位で撮影に臨んでみると、カメラで片手が塞がっているのでうまくいかない。実はハメ撮りにおいては、後背位の方が撮影しやすい(らしい)のだ。しかし、ここでヤマトは毅然としてこう言います。
僕 ハメ撮りとはいえ…
エロだけじゃなく
美しいりんさんの姿もカメラに収めておきたくて…
だからやっぱり正面からが…
あふれる夫婦愛! 愛は勝つ! 愛しか勝たん!
と、ここまで説明してお気づきになられたであろうか?
実は本作、エロ漫画ではなく、エロ“実用”漫画なのだ。
「エロ」に対して「実用」という言葉を使うと、別の意味が派生して面倒なので(別の意味でも十分条件は果たしているので、さらに面倒だ)、厳密に言うと「エロ」に役立つ「実用」情報が満載な漫画なのだ。そしてエピソードごとに、ホワワ~ンとした気持ちになるストーリー。グルメや旅、キャンプといったテーマでおなじみの、あの実用漫画のフォーマットで、エロを掘り下げようとする異色作なのだ!
アブノーマルな営みがラブを生む、それが「あぶらぶ」
ビデオカメラ購入をきっかけに、ちょっとアブノーマルな営みで心と体の絆が深まることを知ったふたりは、さまざまなことにチャレンジする。SMラブホ、制服コスプレ、VRAV……。特に麻布十番に本当にあるSM専門ホテルのエピソードは力が入っていて、ラブホテルという業態の成り立ちから、現在の傾向までツボを押さえた解説がなされる(なぜなら税理士のりんさんは、さまざまな業種の人と仕事をしているから!)。そして国内唯一のSM専門ホテル「アルファイン」の部屋には……
その道にくわしくない人には「?」が浮かぶシロモノがいっぱい。磔台(はりつけだい)はデフォルトとして、コインで動く電動マッサージ機に木馬、「すべ◯ない話」にも登場したボウル型の風呂など、ヤマトとりんさんはきっちり使用方法を説明してくれる。なかでも手錠付き穴あき椅子は、高い機能性、取り外すとディルドーになる装置など数々の工夫が凝らされており、本物を見てみたくなること間違いなし(実は、アルファインのホームページで見られる)。
SMプレイは、お互いの信頼感があって成立するもの。夫婦愛で結ばれたヤマトとりんさんが、ワチャワチャと楽しむ様は、(SMプレイなんだけれど)なんだか微笑ましい。
双方に理解と了解があるかぎり、ベッドの上は無法地帯。そんな「あぶらぶ」を次々に実践していくヤマトとりんさん。ときにリモート会議中に“いたして”みたり、夜の公園でギリギリの露出を試みてみたり、ベッド場外戦に手を出すエピソードには「そこは法律が適用されるよ!」ってヒヤヒヤさせられる。くれぐれもトラブルに巻き込まれないように、そしてふたりの充実した「あぶらぶ」ライフが続くように心から願っています。
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(レビュアー:嶋津善之)
- あぶらぶ 夫婦でアブノーマルなラブしませんか? 1
- 著者:ありしゃん
- 発売日:2024年10月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065371725
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年11月23日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。