「学校」という存在が何十年にもわたって直面してきた問題、それがイジメです。もはやイジメではなく暴行、傷害、恐喝など罪名がついてしまうような激しいもの含めて、その撲滅は今なお大きな課題となっています。
本作は、イジメが2000日間も0件だという日車(ひぐるま)高校が舞台。そんな理想的ともいえる高校にて、ある生徒が不慮の死を遂げるのですが、これは果たして事故死なのか、それとも……!? という疑惑からストーリーが動き出します。
本作の主人公は1年A組の清和絆(せいわつなぐ)。
「イジメ0」を続ける日車高校を賞賛するピュアな男子生徒。信仰にも近いような学校への強い信頼は、とある女子生徒との接触を機に、大きく揺らぐことになります。
イジメ撲滅啓蒙企画として、美術部にイジメをテーマのアート作品を依頼することになった清和は、中学時代にクラスメイトでもあった美術部員・四条かほりに声をかけます。中学ではイジメを受けていたという四条に「イジメを止められなかったことを後悔している」と語る清和。
2000日もの期間、イジメがない日車高校。その裏には、校内にある無数の監視カメラ、教師のイジメ取り締まり出世制度。さらにはネットでのトラブル防止という観点から生徒へのスマホ貸し出しとこれに伴うSNS投稿監視という、ガチガチに管理する特殊な体制があったのです。
素晴らしい教育の下、生徒たち自らの意志でイジメを根絶しているのではなく、徹底監視によって「イジメができないよう」システム化されている、と表現したほうがよさそう。これが異常であることに、まだ清和は気づいていません。
しかし、そんな彼でも否応なく「おかしい」と思わされる出来事が起きてしまいました。
清和の振る舞いを「いい人アピール」と疑っていた四条。本レビュー冒頭のコマからも伝わる、何かに心酔しきっている人特有の、どこか危うい匂い。しかし、ヘアドネーションや献血、ゴミ拾いなど、人のために……と目を輝かせている彼を見て、「ただのいいヤツ」だと理解するに至ります。そう、清和は恐ろしいまでにピュアな子だったのです。そして、四条は、イジメをテーマに絵を描くという彼の依頼を承諾。
何日もかけて間もなく完成、というところまでたどり着いた一枚の絵。
その瞳が捉えたのは、四条に対する嫌がらせ行為そのもの。
四条はイジメを受けていた? それを確かめるべく本人に電話をかけるも繋がりません。そして次の瞬間、学校の屋上から転落する四条を目撃する清和。
これは、イジメによる自殺なんじゃないか。大きな疑念が頭から離れない清和。
四条は事故死だと発表し、直後、何事もなかったかのように嬉々として「イジメ0継続」を喜ぶ校長の姿に、清和の、日車高校に対する信仰はもろくも崩れ去りました。
信じていたものがまやかしだったのでは、と勘づいた清和は、協力者と一緒に、学校が隠蔽していると思われる事実を暴くため、動き出します。清和と行動を共にする意外な人物や、四条の言動に隠されたいくつかの違和感、そして鉄壁な監視体制をどうやってかいくぐるのか、清和たちのミッションにも目が離せません。
ある目標を達成するため、その達成に不都合な事実をあえて見逃す、あるいは捻じ曲げる(解釈を変える)、報告を握りつぶす。イジメの可能性、という段階においては徹底排除しながら、いざイジメが明確な形で顔を出すと、ないものとして振る舞う。昨今、世間を騒がしているニュースにもこうした内容は多々あります。臭い物に蓋をする、臭いと指摘する存在を弾き出す。学校が認めなければ、イジメはないものとする。それが日車高校の誇る「イジメ0件」。
「認めなければ、ないものと同じ」という状況は、実はこの何十年にもわたり、社会のあちこちで起こっていたことかもしれません。イジメを題材にした社会派サスペンス。悪者は学校か、イジメた生徒か、それとも──!? これからいったいどんな謎が明かされていくのか、これからの展開に期待大です!
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(レビュアー:ほしのん)
- イジメ0の学校 1
- 著者:石川実 西嶋慶大
- 発売日:2024年10月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065372449
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年10月29日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。