わたしの恋と恋愛リアリティショーは別物?
ケーキを毎日食べれば必ずパティシエになれるわけではないのと同じで、恋愛リアリティショーを毎日見ているからって、自分の恋も同じように、ぐいぐい進むわけじゃないようです。
『わたしの恋のはじめかた』の“一ノ瀬千咲”(いちのせちさき)は恋愛リアリティショー(恋リア)が大好きな高校2年生。
友達が彼氏と昼休みを過ごすなら自分は1人で恋リアタイム。とくに両想いになる瞬間がお気に入り。だから学校でも人の恋を応援して恋が実る瞬間に立ち会っては「尊い……!」なんてウットリ。
相談されるとつい応援しちゃって、恋リアで培(つちか)った恋愛の知識を活かしてアドバイスしたり。
そしてそのアシストがとても良いらしい。そんな千咲についたあだ名は、
“マチアプ先輩”。歩くマッチングアプリ、というわけです。
マチアプ先輩の評判が独り歩きした結果、ぜんぜん知らない後輩からも「マチアプ先輩、俺と仲良くなってください! (俺の恋を成就させるために)」なんて急に声をかけられる始末。
そんな自分勝手な理由でお願いされたって、こっちは神社でもなんでもないんだけど? ……なんてことは、千咲は言いません。そして心から応援しちゃう。千咲に応援されると恋がうまくいくのは、もしかしたら恋リアの知識よりも、千咲の献身的な性格によるものなのかも。
そんな千咲を「マチアプ先輩」とは絶対に呼ばない人がいます。後輩の“宮沢玲央”(みやざわれお)は、ちょっと生意気だけど……?
まともだ! 私だったらここでもう好きになってる。でも千咲は気づいてないみたい。マチアプ先輩、自分のマッチングは全然やらないんですよ。
千咲は、玲央くんの友達“しょーたろー”の恋愛サポートを引き受けます。日曜日に意中の女の子と初めてデートするしょーたろーをスマホ経由で手取り足取りガイドするらしい。手厚い。もはや仕事として報酬が発生していいレベル。
玲央くんも「気になって」ついてきます。でね、イイ感じのときに「手を繋ぐタイミング!」とスマホで指示だししたのに、しょーたろーはスマホを見る余裕がない。すると!
「手をこうやって繋げ!」としょーたろーに実演してみせる玲央くん! このタイミングでそうきますか! さらにすごいのが次のページですよ。
みなさん、玲央くんに見とれてしまうでしょう? 玲央くんが指さしてる方なんて見てる場合? なのに千咲はちゃんとしょーたろーの方を見て「やった」なんて言ってる。
恋リアで恋愛の機微に詳しくなっても、自分のこととなるとひたすら鈍い?
千咲は自分の恋愛を諦めちゃっているようです。隣でこんなに自分を見つめる人がいるのにね。
「先輩はいつもあげすぎ」
玲央くんが千咲に示す恋のサインは、どんどんまっすぐなものになっていきます。
直球! ぐいぐい系だなあ。
そして千咲はといえば、
「誰でもいい」なんて恋はしたくないし、玲央くんとちゃんと向き合って、特別だって確信をもってから前に進みたい。ぐいぐい系の玲央くんは、千咲の歩幅に合わせるように、うまーく千咲にぐいぐい来ます。
そして玲央くんは千咲にこんなことを言ってくれたり。
いつも誰かに「あげすぎ」な千咲に、玲央くんは何かをあげたいし、受け取ってもらいたいんです。
玲央くんの視線と言葉がものすごくいいマンガなんですよね。2人が見つめ合っていないときでも、じわっと胸に響く。
こんなに好きなのになあ、先輩(千咲)も恋をはじめたらいいのに、って声が聞こえてきそう。
そして玲央くんは「あげすぎ」な千咲のことがとても好き。なんて美しい場面なんだろう。
ところで千咲自身は自分のことを「あげすぎ」だとは思っていないようです。
「玲央くんにもらってばっかり」と気づいています。美しい。恋リアでは味わえないタイプのリアリティだなあ。2巻でも応援するからね!
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(レビュアー:花森リド)
- わたしの恋のはじめかた 1
- 著者:森沢こまり
- 発売日:2024年09月
- 発行所:講談社
- 価格:550円(税込)
- ISBNコード:9784065368305
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年10月4日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。