「佐久間公シリーズ」4カ月連続刊行第2弾は、「小説推理新人賞」受賞作も含めた短編集。古き良き時代の煌びやかかつダークな街の様子や当時の人々の生活にも触れられる一冊だ。
私が大沢作品に出会ったのは、高校2年生、読書に目覚めたばかりの頃だった。作家もジャンルも問わず、とにかく手当たり次第に本を読んでいた。
心にヤンチャを飼っている、新人文学少女であった私は、大沢ワールドに足を踏み入れた瞬間、ここが私の居場所だったのか!と、夢中になって大沢作品を読み漁っていった。
現実の世界では到底味わう事のできない体験を、ここでなら思う存分楽しむ事ができる。酒と煙草と女の匂いが漂う、大人の世界の虜になった。
特に探偵が活躍する作品は大好物で、この『感傷の街角』はまさに、イカした探偵が大活躍。私の中のヤンチャが疼き出す作品だ。
さて、『感傷の街角』は、1979年に大沢さんが第1回小説推理新人賞を受賞された作品となる「感傷の街角」などを収録した短編集だ。1980年にノベルスとして刊行された『標的走路』の次の作品、佐久間公シリーズの第2弾である。
大手法律事務所で失踪人調査を専門に勤めている佐久間公は、どこかお人好しでチャーミング。それでいて漢気があり、関わる相手の懐にすっと入り込んでいく。そんな佐久間公の発言や所作に痺れ、豊富な人脈と持ち前の行動力に納得する。
彼はまさに人捜しのプロ、探偵だ。そしてこの作品では、彼の濃厚な仕事ぶりをいくつかの物語として楽しむことができる。
今ではなかなか味わうことのできない、独特の刺激もまた心地好いのではないだろうか。
古き良き時代の煌びやかでダークな街の様子や人々の生活は、眩しいような懐かしさを感じたり、むしろ新鮮で真新しさを感じたりと、読み手によってその姿を変えることだろう。
大沢在昌伝説の始まりと言っても過言ではない、「感傷の街角」が収録されたこの一冊。新装版となったことで、始まりの瞬間に令和の時代に立ち会うことができる。なんて贅沢なことだろう。そしてきっと、たくさんの人々のハードボイルド欲を満たしてくれるはずだ。
かつての仲間もはじめましての方も、おかえりなさい、そしてようこそ。大沢ハードボイルドの世界へ。
- 感傷の街角 新装版
- 著者:大沢在昌
- 発売日:2024年08月
- 発行所:双葉社
- 価格:902円(税込)
- ISBNコード:9784575527810
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・大沢在昌のインタビューと、『感傷の街角』の試し読みが公開されています。
『小説推理』(双葉社)2024年10月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載