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格闘技を愛するが身体の弱い新人と、誰でも勝たせる天才トレーナーがMMAの頂点を目指す!『無敗のふたり』

「スタイル」は本人には選べない

『無敗のふたり』は、MMA(総合格闘技)の世界を描いた作品である。著者の遠藤浩輝氏には『オールラウンダー廻』という同じMMAの世界(ただし、こちらは修斗)を描いた代表作があって、本作の帯で『進撃の巨人』の著者・諫山創氏が

「遠藤先生の描くMMA(総合格闘技)漫画が凄すぎて、他の漫画家がMMA漫画描く気にならない問題、大いにあると思います」

と書いているのも、「それ、大袈裟じゃないんだろうな」と思うほどの傑作だ。そんな著者の新作である『無敗のふたり』を期待して読み、期待どおりに面白かった。そしてシビれた。

物語の主人公は、MMAの新人選手・三島ユタカと、フリーのセコンド外山晃一郎。外山は格闘技経験ナシの柔道整復師で、ギャラも高いし、あちこちでモメ事を起こしたいわくつきの人物。そして、いつも息が酒臭い“アル中”なのだ。しかし、ユタカは「セコンドについた試合は絶対に勝つ」といわれている外山を、なんとかセコンドに迎え入れたい。しかし……

無敵のふたり
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外山の予言は当たり、ユタカは試合中にケガをしてTKO負け。長期の休養に入ることになる。

その休養期間中、ユタカと同じジムのベテラン選手・飯田の試合が決まる。相手は王座挑戦を目前に控えたスター候補選手。つまり王座戦を盛り上げるための、“かませ犬”として飯田が選ばれたのだ。誰もが負けを予感するこの試合のセコンドを、外山が引き受け、飯田は外山の組んだメニューを黙々とこなしていく。
ユタカは訊く。

無敵のふたり
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そして試合本番。序盤は相手から一方的に攻められる展開になるが、外山の授けた一手で試合の流れは一変。飯田は彼本来のスタイルである「グラップラー(組み技師)」として優勢に試合を運ぶ。

無敵のふたり
無敵のふたり

無敵のふたり

ノックダウンを取りたい、華麗にKO勝ちしたい、観客を沸かせたいのは選手として当然だ。それに対して、グラップラーの関節技や締め技を狙い、コツコツと拳を当てる試合は地味。観客ウケも悪い。しかし、しかしなのだ……。

無敵のふたり
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人間生きていれば「どうしても勝ちたい!」って時がある。それが若い時期ならば「やりたい事」に手を伸ばす余裕もあるだろう。しかしベテランと呼ばれる飯田には、「やれる事」をやるしかない。グラップラーという「スタイル」以外は選べないのだ。
観客になんと言われようが、ただひたすらに「勝ち」をとりにいくドロ臭さ。
華麗なKO勝ちではなく、判定勝ちの「勝ち」の凄味。
それが丹念に描かれる。

この戦いを外山の横で見ていたユタカは、どうしても外山にセコンドについてもらいたくて食い下がるのだが……。

無敵のふたり

話は振り出しに戻る。

 

強いってなんだろう?

「強い奴を描く」というのは、漫画の永遠のテーマだ。主人公は強者を倒し、また新たなる強者が主人公の前に立ちはだかる。そうした物語の偉大な作品はたくさんあるし、遠藤浩輝氏の作品だってそうなのだが、ひとつだけ違うところがある。

無敵のふたり

この認識があるところだ。
実は、これとほぼ同じセリフが『オールラウンダー廻』にも出てくる。そこではもっとストレートにこう書かれている。

「強いからって偉いってわけじゃない」

強ければ、稼げるかもしれない。有名になれるかもしれない。でも偉いわけじゃない。
この一文の「強い」を「◯◯」にして、さまざま言い変えることができる。
賢いからって、美しいからって、お金持ちだからって……、偉いわけじゃない。

では、どうしたら偉くなれるのだろう?
それはわからない。
もちろん、詐欺で逮捕されたアル中の外山が、わかっているハズもない。
じゃあ、どうするのか?
とりあえず「強く」「賢く」「美しく」「お金持ちに」なってみるしかないのだ。
どの道をいくかは、自分が選ぶ。
それこそスタイルに従う。
その道程に、きっとなにかある(かもしれない)。

その後、外山は不起訴となり、断酒会に通い始める。格闘技界にはもう関わらないと言う外山に、ユタカは今一度食い下がるが……。

無敵のふたり
無敵のふたり
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かくして、外山は格闘技界にカムバックする。
話は一歩進む。

ユタカのケガ療養明けの再起戦相手が、鍬原秀岳に決まる。
十分なパワーで、技術をねじ伏せるタイプ。

無敵のふたり

たぶんユタカとは異なる「強さ」の中で生きてきてきた鍬原と、いかに戦うか?
外山の授けた戦略とユタカの肉体が、リングの中でどんな物語を紡ぎ出すのか、ドキドキが止まらない。

(レビュアー:嶋津善之)

無敗のふたり 1
著者:遠藤浩輝
発売日:2024年08月
発行所:講談社
価格:759円(税込)
ISBNコード:9784065362495

※本記事は、講談社コミックプラスに2024年9月16日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。