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ヤクザの父親を持った二人の少年がたどり着いた結末とは?|田村和大『修羅の国の子供たち』

田村和大さん書影『修羅の国の子供たち』

ヤクザの親から虐待されていた二人の少年。一人は検察官になり、一人はヤクザになった。彼らが目指すものは何か。情念のノワールが、ここに誕生した。

ゆっくりと、だが確実に、田村和大は自己の世界を拡大している。NHKの報道記者を経て弁護士になった作者は、2017年、第16回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を警察小説『筋読み』で獲得し、作家デビューを果たした。以後、幾つかの警察小説を出した後、『消えた依頼人』『正義の段階 ヤメ検弁護士・一坊寺陽子』で、リーガル・ミステリーに乗り出す。そして本作で、ノワールの世界に挑んだのである。このようなチャレンジ精神に富んだ作家の姿勢が嬉しい。しかも肝心の物語が、実に読みごたえがあるのだ。

昭和62年、小学3年生の曰佐正範は、父親でヤクザの種雄から、虐待される日々をおくっていた。わずかな慰めは、同級生の友達に、シャブ中の父親を持つ蒲田寅と、母親が男をとっかえひっかえしている仁科加代がいることだ。しかし小学5年生のとき、寅の父親が、とんでもない事件を引き起こす。ひょんなことから拳銃を手にした寅は、加代を狙っていた男を撃ち殺した。そのことに気づいた正範は凶器の拳銃を隠蔽。また、何者かに種雄が殺されるという事件も発生し、三人の道は分かたれる。

その後、正範は母方の祖父母の養子になり、七田姓を名乗る。東大を卒業し、検察官となった。一方、寅は、殺人を目撃したヤクザの函南隆次の子分になり、敵対するヤクザ者を始末していく。しかし二人の絆は強く、共にヤクザを撲滅しようとするのだった。

かつて東大に通うため、函南から金銭の援助を受けていた正範は清廉潔白ではない。寅の方は、いうまでもないだろう。それでもヤクザを憎悪する二人は、J県で長年にわたり抗争を続ける2大指定暴力団を壊滅させるべく、己の手を汚しながら、真っすぐに目的に向かっていく。目を背けたくなる暴力描写も少なからずあるが、二人のマドンナである加代も含めて、彼らがどうなるか気になり、読み進めずにはいられない。まさに人間の憎悪と絆を活写した、情念のノワールなのだ。

さらに最初の方から挟み込まれる、現代の法廷場面の面白さは、現役の弁護士ならではのものである。また、種雄殺しの真相や、正範の東大時代の奇妙な盗難事件など、ミステリーの部分もよく出来ている。特に盗難事件は、そこだけ取り出して短篇にしてもいいほど面白い。大きな和大、いや、話題になってしかるべき、今年のミステリー界の収穫なのである。

修羅の国の子供たち
著者:田村和大
発売日:2024年07月
発行所:双葉社
価格:2,200円(税込)
ISBNコード:9784575247558

双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて『修羅の国の子供たち』の試し読みが公開されています。

『修羅の国の子供たち』の試し読みはこちら

『小説推理』(双葉社)2024年9月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載