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鮨職人が店主や訪れる客を悩みから解き放つ!|原宏一『同居鮨 間借り鮨まさよ2』

原宏一さん『同居鮨 間借り鮨まさよⅡ』

さすらいの鮨職人、雅代が帰ってきた!今回、雅代と出会うのは、子どもとロックシンガーと鮨職人。悩める彼らを雅代の鮨は救えるのか?

全国各地の飲食店に短時間だけ間借りして鮨屋を開く、その名も「鮨まさよ」。ぽっちゃり丸顔でのほほんとしたおばさんだが、腕は超一流だ。そんな彼女が満たすのは客の胃袋だけではない。問題を抱えた店主や悩んでいる客の心まで満たしてしまうのだ。

客、というのがこの第二作のポイント。前作には飲食店の経営者や経営者候補の物語が話、収録されていた。しかし今回は3話中2話が客の話なのである。

第1話は、ベトナム出身の母と2人暮らしの小学生、舞衣が主人公だ。葬儀のためベトナムに里帰りした母が、期日を過ぎても戻ってこない。生活費にも事欠くようになったとき、子ども食堂で間借りしていた雅代に出会う。

第2話はロック歌手のKAZの物語。バンドを解散してソロになる予定である。そのせいかファイナルツアーも今ひとつ足並みが揃わず、客の入りも悪い。そのツアーのケータリングとして店を出していたのが鮨まさよだ。

ともに客の立場なので、前作のように主人公たちが経営者や料理人の心得を雅代から教わるという話ではない。ではなぜ、鮨まさよなのか? その答えが第3話でわかる。

第3話は鮨屋の2代め夫婦の物語だ。父が倒れ、店を継いだ息子は客を呼ぼうと奇を衒ったメニューとパフォーマンス重視の劇場型高級鮨に改装したが評判は悪い。そんな夫を見て、妻は心配でたまらない。そんなとき、鮨まさよが間借りをすることになる。

鮨屋が鮨屋に間借りということで、これまでになくその対比が映える。その店主のやり方ではだめだろう、というのは素人の読者にもはっきりとわかるのだが、では何が足りないのか。ひとりでできると思っていたことだ。

第1話の舞衣は、クラスで孤立し人と関係を築くことを避けていた。母を探すのも人に頼れなかった。第2話のKAZは、自分はちゃんとやっているのにうまくいかないのは周囲のせいだと思っていた。つまり3人の主人公には、人は人とのつながりの中で生きているということを忘れていた、という共通点があるのだ。

それをどんな方法で雅代が気づかせるかが読みどころ。客の物語が入ってきたことで、読者にとってもより身近に感じられる第2弾となっている。心に余裕がなくなると、頑なになったり人を責めたりというのは、誰にでも覚えがあるだろう。そんなときにぜひ読んでほしい一冊だ。心がほぐれること間違いなしである。

同居鮨
著者:原宏一
発売日:2024年05月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784575247435

『小説推理』(双葉社)2024年7月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載

 

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