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人類は最初はみな男として生まれ、一部は女になる――異色のジェンダーSF作品『大きくなったら女の子』

「男らしさ女らしさ」、「男っぽい女っぽい」、「男なんだから女なんだから」……など、性別による固定概念というのは未だ根強く残っています。その言葉の全てが悪いとは思いませんが、男と女という型に生き方を合わせるというのは「時代遅れ」となりました。とはいえ、社会の風潮とは簡単には変わらないのも事実。

そんな社会に一石を投じるジェンダーSF作品となるであろう『大きくなったら女の子』が2024年4月23日に発売されました。本作は2021年7月期モーニング月例賞佳作を受賞した読み切りをベースに制作されたオムニバス作品となっています。

「あなたたちは誰でも女の子になる可能性があります」
この言葉から始まる本作は、人類はみな男の子として生まれ、身体が大きくなった一握りの人が女体化し、女性となる世界が舞台となっています。女性は子どもを産むという大切な役割があるため社会から守られ、さらに絶対的人数が少ないこともあり社会的地位も強くなります。

オムニバス最初の物語の主人公となる「かぐや」は友だちも少なく、見た目のコンプレックスもありクラスでも冴えないタイプの男の子。

そんな「彼」が女体化し「彼女」になった時、かぐやは「女の子らしさ」の振る舞いに思い悩みます。女の子は強くかっこよく、男の子をリードするべき存在だという世間の求めに応じようとしますがなぜか空回りばかり……。

身体が変わった「だけ」で世界が一変する戸惑いを丁寧に描きます。

さて、ここまであらすじと引用ページを読んできて頭に「??」が浮かんだ人も多いのではないでしょうか。そうです、この世界における男性と女性の見た目は、我々の世界と逆なのです。そのため長い髪を切り、スカートをズボンに履き替えることが女性となる際には求められます。

私は事前情報なしで本作を読み始めたため、冒頭からかなり混乱していました。設定を理解した後も「らしさ」に関する表現が出るたび、立ち止まって頭を整理したくなるほど。言葉とその対象が既存社会の逆になるだけでこんなにも戸惑ってしまうなんて、いかに自分が性の固定観念に囚われているかと気付かされます。

そして単なる逆ではなく、本作における性別というのは、既存社会における男女を構成する要素がマーブル模様のように複雑に混ざり合って成り立っていることが物語の深みとなっています。

読みにくい、それこそが本作の醍醐味であるように感じました。読みにくいと「引っかかり」を感じるたびに、なぜそのように感じたのかを考えるきっかけになります。「らしさ」に振り回されるのではなく、「自分がどうしたいのか」を大切にすることに気づいていく主人公たちの姿は多くの人に重なる部分があることでしょう。

男と女、弱者と強者、マイノリティとマジョリティ、どんな立場でも居心地の悪さというのは人それぞれあり、その解決方法は一辺倒ではありません。わかっていても社会生活を送るうちに流されてしまいがちな「核」を再認識させてくれる作品です。幅広い世代に本作が届いて欲しいと強く願います。

(レビュアー:Micha)

※本記事は、講談社コミックプラスに2024年5月30日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。