中山夏美
山形市出身在住。2020年に東京からUターン。山と芸能を得意とするライター。小学1年生のときに『りぼん』(集英社)に出会い、漫画にハマる。10代は少女漫画ばかり読んでいたため、人生で大事なことの大半は矢沢あい先生といくえみ綾先生に教えてもらった。現在は少年、青年、女性、BLまで、ジャンル問わず読んでいる。電子書籍では買わず、すべてコミックで買う派。
はじめまして。アウトドアやエンタメなどでライターをしている中山と申します。小学1年生のときに八文字屋で『りぼん』(集英社)に出会ってからというもの、漫画と共に四半世紀を過ごしてきました。永遠のバイブルは『天使なんかじゃない』であり、『ご近所物語』であり、『NANA』。20代前半までは、矢沢あい先生にすべてを注いでおりました(NANAの続きを読むまでは死ねません!)。東京に上京してからは、周りの影響もあってジャンル問わず漫画を読むようになり、気づけば蔵書は2000冊以上。収納できない漫画で溢れております。
そんな漫画を愛してやまない私が毎月、おすすめの漫画を紹介する企画。完全個人の意見でさまざまな漫画を語っていきたいと思います。
第1回目に選んだ漫画は藤本タツキ先生の『チェンソーマン』(集英社)です。
『チェンソーマン』 藤本タツキ
あらすじ
「悪魔」と呼ばれる存在がいる世界では、それを倒す「デビルハンター」という仕事も存在する。主人公のデンジは、父親が残した借金の返済のために“チェンソーの悪魔”であるポチタと共にデビルハンターをして生計を立てていた。稼いだお金の大半が借金に消えるため、超絶貧乏。デンジは「普通の日常」を夢見ながら生活をしていた。ある日、デビルハンターの仕事を斡旋してくれていたヤクザに騙され、ゾンビの悪魔に殺害される。しかしその時、ポチタと「悪魔の契約」を結んだことで復活。チェンソーの悪魔になったデンジは、ゾンビ集団を倒した。そこに公安のデビルハンターであるマキマが駆けつけ、デンジは公安に管理されながらデビルハンターとしての道を進み始める。
繊細な心理描写と大迫力のバトルシーンに圧倒される
『チェンソーマン』は、2019年に『週刊少年ジャンプ』にて連載がスタートし、2021年に第1部が完結。2022年からは『少年ジャンプ+』にて第2部が始まっている。現在、13巻まで発行され、コミック累計発行部数は2300万部超え。アニメが放送されていることでも話題です。藤本タツキ先生といえば、山形の東北芸術工科大学卒業生。出身が秋田県というのも馴染み深いですよね。それでは早速、魅力に迫っていきます。
〈魅力1〉圧倒的に強い女性キャラが多い
『チェンソーマン』には、悪魔とそれを倒すデビルハンターがたくさん出てきます。妖怪のような悪魔もいれば、人のカタチをした悪魔も多数登場。男性キャラも多いですが、ずば抜けた力を持つ女性キャラ率が高いように思います。その象徴ともいえるのが、内閣官房長官直属のデビルハンターでデンジの上司・マキマです。
ミステリアスかつ美人なマキマは、デンジの憧れの女性。彼女の言動にデンジは常に翻弄されています。公安デビルハンターの指揮を取る立場で、部下からの信頼も熱い。デンジの兄貴的存在である早川アキも、マキマを慕っています。温厚でありながら冷酷。そして誰よりも強い。絶対的カリスマのマキマは、私から見ても憧れる女性です。"いい上司”であった彼女はラストに向けて大きなキーパーソンとなっていきます。最終巻のデンジとのシーンは、震えました。
マキマ以外にも、悪魔が人間の死体に憑依した魔人であるパワーや“姉御”というのがしっくりくる公安の先輩・姫野、人類最強とも言われる中国のデビルハンター・クァンシ、ソ連からの刺客・トーリカの師匠も女性でした。中でもパワーは、人気キャラクターランキングで1位になるほどの人気(ジャンプ公式)。最初は敵対するパワーとデンジでしたが、話が進むにつれて兄妹のようになっていくのは、胸打つものがありました。私個人としては、デンジにハニートラップを仕掛け、命を狙う存在のレゼが大好きなキャラ。「すべてウソだよ」とデンジには言ったけれど、それは彼女の本心ではないと感じたとき、鳥肌が立ちました。デンジと本音で向き合った後に「山形行き」の新幹線に乗ろうとしていたところも(6巻に出てきます)、山形県民としてはグッときてしまいます。
〈魅力2〉いい意味でジャンプらしくない
少年ジャンプといえば、「友情・努力・勝利」がモットーですよね。仲間のために戦い続けるかっこいいヒーローが多く、バトルシーンもどちらかというと激しめのケンカぐらいのイメージでした(出ても鼻血、少々の流血ぐらい)。それが『チェンソーマン』では、悪魔とのバトルシーンでデンジが血だらけになるのは当たり前。頭は切られるし、体も真っ二つになるし、何ならデンジは“血”がエネルギーになるので、血が出ないシーンのほうが少ないぐらい。もしかしてグロいシーンが苦手な人にとっては辛いかもしれませんが、意外とそれが受け入れられるのは、藤本先生の画力の賜物ではないでしょうか。2016年に連載がスタートした『鬼滅の刃』もわりと過激な印象を受けたので、ジャンプも変わってきているのかもしれません。
もうひとつジャンプらしくないところとしては、主要キャラがわりと早い段階で死ぬということ。「強いデビルハンター出てきたな」と思っても、あっさりと次のページで悪魔に殺されたりします。デンジとの物語がたくさんあるキャラですら、早めの巻で死にます。藤本先生がインタビューで「まだ掘り下げようのあるキャラクターが死んだ方が実際の死に近い」と話していたのを読みました。何かを達成してからの死はドラマがありすぎて不自然と感じているそうです。確かに、あまりにも突然なので「悪魔ってマジでやべーじゃん」って思っちゃいましたよね。まんまと藤本先生の思惑にハマったということです。
逆にデンジがデビルハンターになった目的がマキマへの恋心だったのは、ジャンプらしさにも思います。その後も「異性との✗✗」を達成するために奮闘するデンジの姿は、思春期の少年っぽさを感じました(デンジは16歳設定)。
〈魅力3〉最終巻に向かう構成が秀逸
1巻の印象でいえば、チェンソーマンとなったデンジが悪魔を倒していき、最後はボスと思われる悪魔とマキマを筆頭に仲間で戦うのかなというものでした。それでも十分おもしろそうな流れだったし、作品として成立していたと思います。しかし! 違った。そうではない流れが9巻あたりからやってきます。銃の襲撃を受けたはずのマキマが返り血を浴びただけで済んでいたこと。デンジの夢に何度も出てくる「開かずの間」の存在。「未来の悪魔」と契約を結んだアキが見た最悪の未来の真相。書き出せばキリがないのですが、1巻からずっと散りばめられていた伏線が最後の3巻でどんどん回収されていきます。デンジと深く関わった人たちとの暮らし、そこに隠されていた事実を知ったとき、バトル漫画で泣くもんかよと思っていたのに、号泣しました。「支配ではない関係」を築くために世界を壊そうとした真の悪は、デンジが仲間と信頼を深めていく姿がうらやましかったのかもしれません。
第2部「学園編」の展開も気になる!
現在『少年ジャンプ+』で連載中の第2部は、12、13巻(第1部は11巻が最終巻)が発売中。公安ではなくなったデンジが高校生になり、新たなキャラである三鷹アサ、第1部にも出ていた民間デビルハンターの吉田ヒロフミと共に物語は展開していきます。今後、どんな魅力的キャラの悪魔やデビルハンターが登場していくのか、楽しみです!
※本記事は「八文字屋ONLINE」に2023年3月1日に掲載されたものです。
※記事の内容は、執筆時点のものです。