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「人を演じている化け物は、本物になれるのかな…?」最凶少女たちの壮大で残酷な冒険物語『頂のリヴィーツァ』


 

エゲつない“少女監獄モノ”が始まった

主人公は、生まれつき罪悪感が欠損している少女、シキブ・ハナオリ。
常に無表情な彼女が、前科者や孤児の少女たちが集まる更生施設「無垢の園」に潜入したところから、物語は始まる。

彼女の任務は、先代国王が残したとされる秘宝の在処を知る少女を探し、確保すること。
ターゲットが「無垢の園」内にいるという情報を得た宗教団体「キラ正教会」からの依頼を受けて、潜り込んだものだ。「無垢の園」は「キラ正教会」が縄張りとしている政治的緩衝地域に存在しており、同団体としてはせっかく懐に飛び込んできた秘宝を流出させたくない、と考えたのだろう。

園内の秩序は、表向きは少女たちの自治によって守られていた。
そんな中でシキブは、魔術師の名門の家系に生まれた懲罰房常連の問題児、シャルロータ・リヴィーツァと出会う。

初対面からぶつかり合う二人だが、シキブは実はシャルロータも秘宝の鍵を握る少女を探している「探索者」の一人であること、しかも秘宝の正体が、彼女の実家が王家と共同研究していた「世界構造すら書き換える可能性を秘めた大魔術」の魔術論文であることを知る。
シャルロータもまた、王と自分の父を殺し、その魔術論文を持ち逃げした少女・カティを探し、命を奪うために「無垢の園」に潜入していたのだ。


喧嘩で入れられた懲罰房で、お互いが秘宝の「守り人」を探す「探索者」であることを知る。

「守り人」と呼ばれる秘宝の鍵を握る少女を見つけ、確保したいシキブ。殺して秘宝(魔術論文)を取り戻したいシャルロータ。「探索者」である二人は一時的に同盟を結び、同室の少女たちも巻き込みつつ「守り人」の容疑者を絞り込もうとする。ところが彼女らが動くたびにさまざまな衝撃的な事件が起こり、園内の闇も次々と暴かれていく――。

 

謎解き要素も楽しめる“魂のぶつかり合い”

本作の魅力は、なんといっても「特殊な能力・性質・性癖を持った少女たち」による、魂の衝突のような“ぶつかり合い”だろう。


シキブとシャルロータ、初対面の食堂で、いきなり素手喧嘩(ステゴロ)が勃発!

主人公のシキブ・ハナオリは、さまざまな諜報活動、暗殺業などに携わってきた「プロ」のようだが、その素性はまだ明らかにされていない。物語のキーマンであり、タイトルにもその名が使われているシャルロータ・リヴィーツァは、容姿端麗かつ野性味あふれる激情型ながら、強く誇り高い精神の持ち主。

ほかにも園内にいるのは、「警察係」の建前で規則違反の少女たちを拷問して楽しむサド少女や、一見、清楚ながら園内で12人以上もの少女たちと関係を持っている図書委員、実は魔術の天才であり他人のおしっこの音を聞きたがる変態少女、さらには生まれつき痛覚が欠けている女優志望の少女など、ひとクセもふたクセもあるメンバーばかり。

ときに素手で殴り合い、ときに魔術を撃ち合い、ときに徒党を組んで策略を練ることで目的を果たそうとする彼女たち。第1巻では、一度は「守り人」が衝撃的な姿で発見されたかと思いきや、それがフェイクだったことが明らかになる。


政治的な知略に長けた情報戦から純粋な「暴力」まで、すべての「争いの形」がここにある。

第1話「クロユリの入園」
第2話「ダンディライオンの狂騒」
第3話「オリアンダーの葬送」
第4話「スミレの秘め事」
第5話「クレマチスの散華」
と、各話のサブタイトルによく知られた草花の洋名が使われているのも意味深だ。それぞれの花の名前が各話のメインキャラクターを示唆しているようで、「なにがしかの伏線になっているのかも」と、思わず花言葉を調べてみたくなる。

展開の速さも今風で、安易な先読みを許さない構成の巧みさも際立つ一作。
近年流行の「ディストピア・ファンタジー」の中でも異彩を放つ、最凶の少女たちによる壮大かつ残酷な冒険物語の行く末から、目が離せない。

(レビュアー:奥津圭介)

頂のリヴィーツァ 1
著者:山座一心
発売日:2024年04月
発行所:講談社
価格:759円(税込)
ISBNコード:9784065352564

※本記事は、講談社コミックプラスに2024年5月24日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。