人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

人と本や本屋さんとをつなぐWEBメディア「ほんのひきだし」

  1. HOME
  2. 本と人
  3. ほん
  4. 「星野警部」シリーズ、8年半ぶりの新作登場!|五十嵐貴久『十字路』

「星野警部」シリーズ、8年半ぶりの新作登場!|五十嵐貴久『十字路』

五十嵐貴久さん『十字路』

十字路で殺された小学校教師。単純な強盗殺人と思われたが、その裏には恐るべき真実があった。五十嵐貴久の「星野警部」シリーズ、待望の第3弾だ。

五十嵐貴久の「星野警部」シリーズ、待望の第3弾が刊行された。といっても熱心な作者のファンでなければ、このシリーズのこと自体、知らないかもしれない。なぜなら超スローペースなのだ。現役総理大臣の孫娘が誘拐される第1弾『誘拐』は、2008年刊。児童連続殺人事件を扱った第2弾『贖い』は、2015年刊。そして本誌連載を経て、今年(2024年)、ようやく本書が上梓されたのである。

雨の激しい夜、神代小学校の教師・織川俊秀は、自宅近くの十字路で、何者かに刺されて死亡した。ちょうど俊秀が殺される場面を目撃した、義娘の詩音の証言により、犯人の逃走方向はある程度確定された。また、財布が持ち去られていることから、強盗殺人の線で捜査が進む。それが犯人の偽装ではないかと疑う淀屋警部補は、癌により入院した。警部補の穴を埋めて捜査を継続するのが、『贖い』の事件を解決したものの、上司と揉めて異動してきた星野警部だ。『贖い』で縁のあった坪川刑事と組み、地道に関係者を当たる星野警部だが、新たな毒殺事件が起こり、事件は混迷の度合いを深めるのだった。

という警察側のストーリーの合間に、高校1年生の詩音と、大学生の椎名流夏のエピソードが挿入される。2人はどちらも、飛びぬけた絵の才能を持っている。だが詩音の絵はしだいに変化し、流夏は絵を描くのを止めていた。また流夏は、同性異性を問わず好かれている。

主人公の星野警部は、風采の上がらない中年男だが、元交渉人であり、多くの事件を解決に導いている。しかも独自の信念の持ち主であり、行動は果断だ。本書を読めば、そのことは明らかだろう。特に、あえて困難な道を選ぶ、終盤の彼の言葉は圧巻だ。

もちろん刑事としての能力も抜群。かなり早い段階で、犯人が誰か分かっている。ミステリーを読み慣れている人なら、同じように犯人の名前を指摘できるだろう。だが、動機が不明だ。この興味で読者を強く引っ張るのである。そして、衝撃の真相にたどり着く。詩音や流夏の“絵”の使い方や、登場人物の絡ませ方など、全体の構図やストーリー展開が、巧緻に組み立てられている。実に優れたミステリーなのだ。

それにしても「星野警部」シリーズは、どれも面白い。だから第4弾は、もっと短期間で刊行されることを、願っているのである。

十字路
著者:五十嵐貴久
発売日:2024年03月
発行所:双葉社
価格:1,870円(税込)
ISBNコード:9784575247282

『小説推理』(双葉社)2024年5月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載