胸の小さい私なんて! ましてや男になるなんて!
『#アイトラ』は、「男女入れ替わり」ラブコメだ。
男女入れ替わりモノと聞いて、
『転校生』の前に「男女入れ替わり」なく
『転校生』の後に「男女入れ替わり」なし!
と鼻息荒い『転校生』原理主義者の私。しかし、考えを改めた。『#アイトラ』は面白い!
主人公は、大きい胸がウリの山本愛天使(やまもとラブエンジェル・本名、愛称はラブリン)という動画配信者。従姉妹で幼馴染の根子美南と「ラブリンチャンネル」を運営している。
あるとき、いんちき心霊スポットで撮影中、怪しげなものを壊したところ……、
トントントーンとテンポよく女性→男性へ。
さらにラブリンのフォロワーで、突然女性になったという男性を発見。早速会いに行ってみると……。
なんか、胸がトゥンクトゥンクして、キラキラが舞う。これは運命の出会い?
男性→女性になった彼の名前はタカユキ。しかし、ここでふたりの急接近に「ちょっと待て!」をかける人がいた。
それは、ずっとラブリン一筋だった美南ちゃん。こうして面倒くさそうな三角関係が成立してしまいます……と、ここまでが第1話。
「胸の小さい自分になんか価値はない。ましてや男の自分など」と、元に戻るべく、いんちき心霊スポットに戻ってみると、ウサギとウミウシが合体したような宇宙人が現れて、こう告げる。
「愛あるキスをすれば元に戻る」というトリガーは、ラブコメとしては古典的だけど、これが後で効いてくる。ラブリンとタカユキは、キスするのはまんざらでもないのだが、美南ちゃん的には大いに問題あり。いい雰囲気になりそうな、ふたりの間に割ってキスを断固阻止!
そこにタカユキが思いもよらぬボムを投下します。
唖然、呆然……と、ここまでが第2話。
なに、この1話ごとのラストで見せる、見事な「ヒキ」。お、面白い!
女性→男性、男性→女性、目まぐるしく展開!
展開が早い! そして、どうなる三角関係! 各話のラストのヒキがうまさに加え、作者のねこうめさんは、設定をフルに活かして次々に展開させていくのが本当にうまい。加えてラブリンや美南ちゃん、タカユキ、どの女の子(?)もルックスが魅力的。
「男女入れ替わり」を使った作品は、漫画以外にも小説や映画、ドラマでも多い。でも、この『#アイトラ』がほかとちょっと違うのは、女性→男性、男性→女性には変化するのだけれど、ラブリン→タカユキ、タカユキ→ラブリンの人格が変わるわけではないこと。そういう異性化する作品もままある。たとえば『らんま1/2(高橋留美子・作)』や『個人差あります(日暮キノコ・作)』もそう。異性化で主人公たちは性の“ゆらぎ”を体験するけれど、基本的に女性になった男性なので、視点はどうしても男性寄りになる。だけどラブリンは女性→男性で視点は女性側。これって結構珍しい設定で、どうしてそういう作品が少ないのか考え始めると、いろいろ面白そうな考察ができそうだけど、それは本作にはあまり関係がないので置いとく。
もうひとつ大切な設定が、コレ。
タカユキは美少女になることに憧れていた、という設定。だから女になったタカユキが、自分の体を見て「うへへ、おっぱい揉んじゃうぞ」っていう、よくあるエロ展開にならない。
整理をすると
・ラブリンは、胸が大きいことが自分の存在価値だと考えていて、男性の体に興味がない
・タカユキは、ラブリンみたいな女性になることに憧れていたのでうれしい
・美南はずっとラブリンが好き
つまり『#アイトラ』は、登場人物みんなが女性視点で、そこでわちゃわちゃやっているほのぼの系漫画。『ゆるキャン△』や『ガールズ&パンツァー』の感じで、男女入れ替わりものに挑戦した作品とも言える。漫画ってこうやって分化、進化していくのだなぁ。
話を物語に戻そう。女性になったタカユキが、ラブリンにそっくりだったため、影武者となって動画配信をし始める。そうするとタカユキの“あざとらしさ”がウケて、フォロワー10万人を突破。大きな胸に続いて、ラブリンは動画配信者としての自信も失ってしまう。さらに美南ちゃんが、タカユキの言葉に頬を赤らめるに至り、自我崩壊……。ラブリンは、意を決して美南ちゃんにキスしようとする。
と、ここまでが第3話。このあと、どうなると思います?
ラブリンが女性に戻ります! だって、愛あるキスをしたからね。
でも、お話はそう簡単には収まらない。なんと!
美南ちゃんの体に、アレが!
どうなる美南ちゃん!
さらに、驚天動地の第4話のラストのヒキも含めて、第2巻を待て!
*
(レビュアー:嶋津善之)
- #アイトラ 1
- 著者:ねこうめ
- 発売日:2024年03月
- 発行所:講談社
- 価格:759円(税込)
- ISBNコード:9784065346846
※本記事は、講談社コミックプラスに2024年4月2日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。