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「か」わいいJCと「ゆ」かいな仲間が「うま」いこと街を守る! 宇宙の命運を賭けた、ゆるすぎる闘い(コメディ)『かゆうま』

かわいいJCと、ゆかいな仲間が、うまいこと街を守る

中学生と巨大ロボは、どうしてこんなに相性がいいのだろう。いや、20代だって40代だってステキに乗りこなせると思うが、14歳とか15歳がロボットに搭乗すると実に絵になる。

『かゆうま』の巨大ロボット・“御神体”を駆るのは女子中学生(JC)。

街に襲来した“嵬獣(かいじゅう)”を倒すのが、御神体と、御神体に乗る“祈り子(いのりこ)”の役目。祈り子に選ばれた少女の名前は“実乃莉(みのり)”。うん、絵になる。

30年ぶりに出現した嵬獣の目的は? 祈り子とは何なのか? ……という話も大事なのだが、足元の状況をいくつか紹介したい。

嵬獣が出現するのは、桔梗市という地方都市。桔梗市の人びとは、嵬獣と次のように対峙する。

自治体からの防災放送で住人のみなさんに避難の案内。まともだ。御神体の管理も桔梗市の防災課が担っているようだ。そして御神体パイロットの実乃莉に呼びかけるのも桔梗市の職員。

あ、親子でしたか。桔梗市の市章入りのパイロットスーツがまぶしい。ほのぼのしているが、実に絵になる。

自治体とJCが手を取り合い、えっちらおっちら戦っている。あと、お父さんこと“黄瀬”は、こんな非常事態でも娘を褒めて褒めて褒めまくって、溺愛ぶりが隠せていない。ほのぼの。

なお、『かゆうま』とは、「“か”わいいJCと、“ゆ”かいな仲間が、“うま”いこと街を守る!」の略。某名作ホラーゲームの名も無きキャラクターが自身の病状の進行具合を記した気の毒な日誌のアレではないのだ。

 

嵬獣倒して高校推薦ゲットだぜ

実乃莉は、ある日“ふわふわした謎の生きもの”に出会い、なんとなく祈り子となった。

自称・“スーパーヒーロー様”には名前がいっぱいある。“ネコちゃん”、“お狐様”、“ごぇwt@”、“ゴエ太”……「その時々」に、いろんな名前を与えられてきた存在だ。本稿ではゴエ太と呼ばせてもらう。ゴエ太の言葉を理解するのは祈り子である実乃莉だけ。他の人には「ニャーン」としか聞こえない。

実乃莉がこの謎多きゴエ太を見つけた翌日から嵬獣が出現するように。

ニャーンと鳴く謎の存在に、シュレディンガー。宇宙と量子力学の香りがあちこちに漂う(本作の物理学的な表現の監修は、慶應義塾大学教授の松浦壮先生がご担当されている)。

ヘンテコな嵬獣が次から次へとやって来る。みんな何しに来てんの?

パッと見はユルいが、なにか壮大なことが起こっているにちがいない。実乃莉の肩にのしかかる地球の未来……! そして実乃莉は「あること」に気がついてしまうのだ。

御神体に乗って嵬獣と戦えば、高校受験で有利になるかも? だって実乃莉はJC。友達と同じ高校に行きたいけど偏差値が足りない。一般入試じゃ絶対合格できなさそうだから推薦で入っちゃえ、というわけ。

JCの進路と地球の命運で既に大忙しだが、もうひとつ巨大なカオスがやって来る。

かつて「一撃必殺」と謳(うた)われた祈り子・“紫藤直哉”。30年前に少年だったということは、おそらく40代半ば。そんな紫藤は何を語る? 娘を愛してやまない黄瀬としては気が気じゃない。

かつての祈り子は、いにしえのインターネット用語を使いこなす男だった。

ああ、いつでもどこでもインターネット老人会。和む。

「希ガス」じゃなくて、ちゃんと思い出してほしい。

紫藤の変態っぽさについ目が行ってしまうが、このページの会話すべてに、私がまだ見つけていない秘密の匂いを感じる。シュレディンガーの宴の最中、桔梗市は「複数の状態を持つ」。学者が知恵熱を出しそうな宴の中心で、内申点ほしさにロボットに乗って戦う実乃莉。とてもいい組み合わせだ。

(レビュアー:花森リド)

かゆうま 1
著者:坂木原レム
発売日:2024年02月
発行所:講談社
価格:759円(税込)
ISBNコード:9784065345870

※本記事は、講談社コミックプラスに2024年3月21日に掲載されたものです。
※この記事の内容は掲載当時のものです。