SNS社会を震撼させた「観測者」事件!それを巻き起こしたものは、果たして何か?人間を自在に制御する怪人・鬼界がふたたび登場する異色長篇!
小説推理新人賞の最終候補作を書き継いで連作長篇に仕立てた松城明のデビュー作『可制御の殺人』(双葉文庫)では、Q大学で発生した殺人事件の背後に、工学部の鬼界という男が潜んでいた。
人間を一つのシステムと見れば、適切な情報をインプットすることで望んだアウトプットを得ることが可能、というのが持論で、彼はその言葉通り、多くの人を本人も気づかぬままに操り、時には犯罪を犯させていくのだ。
第2作となる本書では、まず「観測者」の章で鬼界に操られた須崎猟が次々と猟奇的な殺人を行っていく。巨大SNSクォーカのユーザーを狙ったもので、観測者を名乗るアカウントが犯行を予告していた。観測者はQオブザーバーなるソフトで条件に合致するユーザーを特定しているというが、それは技術的に不可能なはずであった。しかし、実際に第2、第3の犯行が行われると、人々の間にも動揺が広がっていく……。
「追跡者」の章ではQ大学の学生・今津唯が登場する。唯は匿名でイラストレーターとして活動しており、中学時代からの友人・姪浜陽子のVチューバーアカウントにアバターの画像を提供していた。しかし、陽子が観測者の最初の犠牲者となってしまったことで、そのショックから、観測者の正体を突き止めるべく捜査を開始する。
「部外者」の章では前作に続いて大学生の月浦一真が登場する。唯は大学の同期の月浦紫音を通じて兄の一真から鬼界の存在を聞き、捜査に協力してもらうことになる。「変革者」の章ではクォーカ社員の鳥飼仁が登場する。彼はAIを使って悪意のある投稿を無くすシステムを考案していた。だが、高校時代に彼が投稿した暴行現場の動画のせいで失職したサッカー部の顧問が第二の犠牲者となったことで、観測者事件に巻き込まれていくことになる。
この4つのパートが少しずつ進行して、意外な結末まで読者を一気に連れ去ってしまう。畳みかけるようなどんでん返しが連続する終盤の展開に興奮しないミステリ・ファンはいないだろう。
国産ミステリの歴史を変えた綾辻行人のデビュー作『十角館の殺人』(87年)にはパソコン通信のハンドルネームを利用したトリックが用いられていたが、インターネットの大衆化で、その匿名性を利用したトリックも、ここまで複雑化したのかと感慨深いものがある。本格、社会派、サスペンスの三要素を兼ね備えた傑作だ。
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- 観測者の殺人
- 著者:松城明
- 発売日:2024年02月
- 発行所:双葉社
- 価格:2,035円(税込)
- ISBNコード:9784575247213
双葉社文芸総合サイト「COLORFUL」にて著者・松城明さんのインタビューが公開されています。
著者・松城明さんのインタビュー記事はこちら
『小説推理』(双葉社)2024年4月号「BOOK REVIEW 双葉社 注目の新刊」より転載