新しい年が始まりました。ほんのひきだしでは今年も皆様の読書ライフの充実をお手伝いすべく、人生を豊かにしてくれる、さまざまな魅力あふれる本をご紹介していきます。
まずは、1月1日より12日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。
ぜひ、今年の“初読み”にふさわしい一冊を見つけて、書店に足を運んでみてください。
ポプラ社編集者 鈴木実穂さんの注目作家は「菰野江名」
菰野江名(こもの えな)
1993年生まれ。三重県出身、東京都在住。『つぎはぐ、さんかく』(応募時の「つぎはぐ△」を改題)にて第11回ポプラ社小説新人賞を受賞し、デビュー。
身近な舞台から、心は大きく広がっていく
過去最多応募数だった第11回ポプラ社小説新人賞にて、選考委員の満場一致で選ばれたのが『つぎはぐ、さんかく』という作品です。作者は菰野江名さん。本作でデビューとなる新人作家さんです。
物語の舞台は、仲良しの3きょうだいが営む惣菜屋。
「甘くてからい。煮詰まる音はくつくつとかわいい。四国の醸造元から取り寄せた醬油にてんさい糖で甘みをつけて、弱火で焦がさないようゆっくりと煮詰めた。」
応募原稿を初めて読んだときに、この冒頭にきゅんと心を掴まれました。
惣菜と珈琲のお店「△(さんかく)」では、主人公の女性・ヒロが美味しい惣菜を作り、兄の晴太が香ばしいコーヒーを淹れ、末っ子の中学3年生・蒼が元気に学校へ出かける。仲睦まじい3人のやりとりも微笑ましく、「ほっこりするグルメ小説かな?」なんて思っていたら……見事に予想を裏切られました。
ストーリーが進むにつれて、謎めく展開に引きこまれ、3人だけで暮らしている理由、彼らの本当の関係性が明らかになっていき、いつしか胸がひりひりし始めます。
大人に振り回されてきた子供たちが大人になったとき、彼らはどう生きていくのか? 家族の在り方とは、1人の人間としてのアイデンティティとは……。身を寄せ合って懸命に生きてきた3人がたどり着いた答えに、深い感動が込み上げました。
菰野さんが描く物語の世界は、私の想像よりはるかに遠くまで広がっていました。紡ぎ出される、温かくて優しい、だけど嘘のない言葉一つ一つも、心に沁みていきます。とても魅力のある書き手の方だと驚きと喜びを感じました。
この素晴らしい作品と作家さんをポプラ社から送り出せることが、楽しみでなりません。ぜひご注目ください!
(ポプラ社 コンテンツプロデュースグループ 一般書編集 文芸ユニット 鈴木実穂)
つぎはぐ、さんかく
著者:菰野江名
発売日:2023年01月
発行所:ポプラ社
価格:1,760円(税込)
ISBN:9784591176122