新しい年が始まりました。ほんのひきだしでは今年も皆様の読書ライフの充実をお手伝いすべく、人生を豊かにしてくれる、さまざまな魅力あふれる本をご紹介していきます。
まずは、1月1日より12日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。
ぜひ、今年の“初読み”にふさわしい一冊を見つけて、書店に足を運んでみてください。
中央公論新社編集者 山本美里さんの注目作家は「髙森美由紀」
髙森美由紀(たかもり みゆき)
1980年生まれ。青森県出身・在住。2014年『ジャパン・ディグニティ』で産業編集センター出版部主催の第1回暮らしの小説大賞を受賞。2015年『いっしょにアんべ!』で第44回児童文芸新人賞受賞。『花木荘のひとびと』が集英社の2017年ノベル大賞を受賞。他の作品に「みとりし」シリーズ(産業編集センター)、『山の上のランチタイム』『山のふもとのブレイクタイム』(中央公論新社)などがある。
青森の空気、匂い、手触りを描かせたらピカイチ!唯一無二の作品を生み出すことのできる作家
私が髙森作品に初めて出会ったのは、都内の大型書店。平積みされている本たちの中で、ぽっかりヘコんでいる場所にあった一冊だった。
どうやら青森在住の作家さんらしい。珍しいな。
そう思いながらデビュー作『ジャパン・ディグニティ』から『おひさまジャム果風堂』と読み進めた。作品を重ねるごとにどんどん上手くなっていく。そして『みさと町立図書館分館』の何気ない描写にほろりと涙した時、執筆をお願いしようと思った。
髙森さんの作品は東北を舞台にした何気ない日常を描いたものがほとんどだ。だがその中で時折、胸の奥をぐわりと掴まれるような衝撃を受ける。それはなぜだろうかと考えてみた時、私が初めていただいた作品『山の上のランチタイム』の主人公・美玖のセリフに思い至った。
「牛の目って大きくて優しくない? 瑛太君は、内側にこういう目を持っててさ、なんだってよく見えちゃうんだよね。おまけにこんなにパッチリかっぴらいてるし。おっきいとゴミも入りやすいし、真ん中の柔らかい所は傷つきやすいから痛いことが多いかもしれない」
「だけどね、だからこそ君は強くなるよ。目だけじゃなくて心もかっぴらけるくらいに強くなる。見えるもの、何もかもを拒まなくたって、君は大丈夫だよ」
髙森さんの生み出すキャラクターやセリフは、決して取り繕っていない。だから読んでいて心にストレートに入ってくるのではないか。心が揺さぶられるのではないか?そんな髙森さんに、次作のテーマを編集部からリクエストした。それは、日本三大刺し子のひとつ「南部菱刺し」。まさに青森で生まれ発展してきたものを、髙森さんがどう見て、どう物語に落とし込んでいくのか。
1月19日発売予定の『藍色ちくちく 魔女の菱刺し工房』は、担当が予想した以上に美しく、切なく、でも逞しい、素敵な物語に仕上がってきました。
是非、読んでみてください!
(中央公論新社 文芸編集部 山本美里)
藍色ちくちく
著者:髙森美由紀
発売日:2023年01月
発行所:中央公論新社
価格:1,870円(税込)
ISBN:9784120056208
山の上のランチタイム
著者:髙森美由紀
発売日:2019年11月
発行所:中央公論新社
価格:1,760円(税込)
ISBN:9784120052477