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【Vol.9:永井紗耶子】編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!

新しい年が始まりました。ほんのひきだしでは今年も皆様の読書ライフの充実をお手伝いすべく、人生を豊かにしてくれる、さまざまな魅力あふれる本をご紹介していきます。

まずは、1月1日より12日間にわたり、各出版社の文芸編集者の皆さんが【いま注目の作家】を紹介する「編集者が注目!2023年はこの作家を読んでほしい!」をお届けします。

ぜひ、今年の“初読み”にふさわしい一冊を見つけて、書店に足を運んでみてください。

 

新潮社編集者 川上祥子さんの注目作家は「永井紗耶子」

永井紗耶子(ながい さやこ)
1977年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経て、フリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、『絡繰り心中』で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2020年に刊行した『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』(新潮社)は、細谷正充賞と、本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞を受賞した。2022年、『女人入眼』(中央公論新社)が直木賞候補に。他の著書に『大奥づとめ よろずおつとめ申し候』(新潮社)、『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』『横濱王』(ともに小学館)、『広岡浅子という生き方』(洋泉社)などがある。

 

幾度もの座礁から、必ず生還する小説家

お会いすると、お話が抜群におもしろくて、笑顔を絶やさない、やわらかな雰囲気の女性ですが、実は永井さんは知られざるハードボイルドな一面を持っています。

それは、永井さんが打ち合わせのときにしばしば口にされる、「座礁」という言葉に象徴的に表れます。「ちょっと座礁してました」「また座礁しちゃって……ふふふ」。

創作の序盤、永井さんは可能なかぎりの史料に当たり、ダイバーみたいに歴史の海にもぐっていきます。そして、海の底でつかみとった何かを手に、今度は手漕ぎボートに乗り込み、ひたすらオールを漕ぎます。そして時々の座礁……でも、ハードボイルドな永井さんは、「助けてくれ」とかそういう弱音はいっさい吐きません。第一、誰かが手をかしてどうこうできるレベルの苦闘ではないのですね。

そして、時間はかかっても、最後には必ず大きな獲物を手に生還してくれる。私が、そんな絶大な信頼を置いている小説家が永井さんです。

予定調和と真逆の創作スタイルなので、結局、永井さんの作品はスケールが大きくなるのでしょう。

江戸の芝居小屋が舞台の最新時代長篇『木挽町のあだ討ち』は永井さんらしく、ストーリー展開は華やかでありながらテーマは硬派。江戸時代のことを知らなくてもドキドキしながらおもしろく読め、ラストに驚きありの傑作です。現代人が立ち止まって考えるべき、多様性や正義の本質といった大きなテーマが詰まっています。ぜひ読んでみていただけるとうれしいです。

余談ですが、先日お会いしたときに永井さんが「今度は地図みたいなものを創ってから書いてるんです……ふふふ」とおっしゃって、「進化されたなあ」と感慨深く思いました。でも、この先も永井さんが魚群探知機とかAI搭載の船に乗ることはないと思います。

これからも、手漕ぎボートにひとり乗り込み、何度座礁したとしても、きっとまた笑顔で大作を手に生還してくださることでしょう。

(新潮社 出版部 川上祥子)

 

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木挽町のあだ討ち
著者:永井紗耶子
発売日:2023年01月
発行所:新潮社
価格:1,870円(税込)
ISBN:9784103520238